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橘平、土下座する

いつもお読みいただきありがとうございます。なかなかに膨らませたかと。

 橘平は台所に連れ込まれ、そこで腕を解放された。


 解放と同時に土下座し、小声で「ああ、さっきはほんとごめんなさいごめんなさい」と平謝りした。


「ちょっとやめてよ、土下座って。顔上げて、立ってよ!」


 向日葵は橘平の肩と腕をつかみ、立つように促す。


「痛い!!」


「ああ、ごめんごめん…」とっさに橘平から手を離す。


 少年は恐る恐る顔を上げる。


 向日葵はまだ恥ずかしそうな顔だが、橘平の耳元でささやいた。


「効いた…と思う。変な効き方な気もするけど」


「へ、変? 大丈夫なんですか、変って」


「大丈夫だよ、変だけど」


「変でも、その…仲直りできたんですよね、葵さんと」


「仲直りっていうか、まあ、ふ」


 向日葵は「普通に戻った」、そう言おうとした。


 けれど、橘平の術中にはまり、彼女の保ってきた「普通」を壊されたのである。普通ではないかもしれない。向日葵は別の言葉に置き換えた。


「大丈夫、無視はしてないから。安心して」


 その言葉に橘平はほっとした。


「良かった。お役に立てて!」


 橘平のせいで、彼女の心は夏の台風のようにかき乱された。それを知らない少年は「あーほんと良かったあ」と心から安心しきった、緩んだ顔をしている。


 葵の行動が仲直りにあたるのか、これから彼とどう向き合っていくべきなのか。距離感をまた戻せるのか。


 真剣に悩んでいる向日葵は、橘平の頬をつねる。


「いって!」


「きっぺー、ヤカンに水」


「はい。へへへ」


「なに笑ってんのよ!!」


「笑顔は世界を救うんすよ」


 橘平は彼女の手を握ってそういうと、立ち上がってヤカンを手に取り、水を入れ始めた。


 作り物ではない、自然な笑顔。これまで外の顔を作り続けてきた向日葵には羨ましいもの。自分にはないものだと思っている向日葵だが、彼の笑顔に触れると、彼女も自然な笑顔になっているのだった。


 自然な笑顔のまま、向日葵は茶箪笥から茶筒を取り出す。


 葵との距離感、戻す必要もないのでは。そう思い始めていた。




◇◇◇◇◇


 


 夜も更け、「高校生はそろそろ帰れ」と古民家の住人から指令が下った。古文書の残りは明日以降、葵が順次読んでいくということだ。


「じゃあ、私、明日も来るね」


「いいよ桜さん、俺一人で」


「メモしたいこともあるし!」


「…わかった」


 自分の知らないところで、親友が他の友達と仲良くしている。


 あの気持ちが橘平の心に再来した。橘平も「明日来る」と言いたいが、文字が読めない。役立たずゆえに、そんな発言はできなかった。


「そかそか。じゃあ二人は明日も頑張ってねん」


 向日葵が手を振り帰ろうとすると、「夕飯作りたかったら来ていいぞ」葵がそう呼びかけた。


「はあ?専属の飯炊き係かっつーの!明日は躰道のせんせーだから来れませんよ!」


 その言葉に、橘平は自分でもびっくりするくらい、大きな声で、一も二もなく反応していた。


「それ、何時からっすか!?」


 突然の橘平の大声に、3人はびっくりした。


「それってつまり、きっちゃん、躰道のお稽古来るってコト?」


「はい!と、とりあえず体験?見学?行ってもいいですか?」


「もっちろん!」


 向日葵はぎゅううっと橘平を抱きしめた。


 葵と桜を守る仲間が増えて嬉しい。その気持ちに向日葵は気づいていないけれど、心では感じていたのだった。


「ち、ちっそくする」


「ああん、またもごめん!じゃあ、明日、また会おうね」


 橘平にほおずりし、向日葵はスキップでピンクの車に乗り込んでいった。

橘平たちの日常がいいな、と思っていただけましたら、評価、ブクマ等で彼らを応援してくださると向日葵が喜びます。


暑さに負けず(私はちょっとダウンしてます)、頑張りましょう。

それではまた。

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