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橘平、神社の娘と出会う~少年は友達のいない少女と悪神を追い、結ばれない二人を気にかける  作者: 坂東さしま
橘平、桜と友達になる

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橘平、家の歴史を知る

 夕食後のお茶とともに、桜と葵が古文書を読みはじめた。


 役立たず二人は、二人用の赤いソファでこそこそ雑談しながらその様子を眺めていた。


「向日葵さん、読めないんですか?」


「いみふめー。今日は料理人だよん」


「ふーん、勉強しなかったんすね」


 ふと、真顔になった向日葵だったが、すぐにいつもの明るい笑みに戻る。


「私は頭より体を使う方が得意なの!」


「そーっぽいっすね」


「なにそれ、バカにしてるう?」


「ち、違いますよ、頭脳神経より運動神経の方が良さそうだなーって」


「聞いたことないよ頭脳神経。そーだ!」向日葵は橘平の肩を抱き、「料理のついでに強くならない?」と誘った。


「つよく?」


「そそ、武道。躰道」


「ぶどう?たいどう?」


「陸上部だっけ?走るのももちろん、逃げるってスキルには必須だけど、それに加えて身を守る方法も覚えたらってこと」


 以前に桜が、「強くなりたいなら、向日葵が喜んで教えてくれる」というようなことを言っていた。あの時はスパルタそうで怖いと思っていたけれど、実際にバケモノと向き合ってみて、逃げるだけでなく「守る」にも技術がいると橘平は実感していた。


「ほんとに強くなるには時間かかるけどもさ、基礎だけでも今、覚えといて損なしだと思うよ~。子供たちに教えてるから来れば?」


 有術のような特殊な技がない自分にできることは、桜をとにかく守ることだ。聞いたこともない武道だが、良い機会かもしれないと橘平は思い直した。


 ぱさ。


 葵が一冊目を読み終えた。次の本を手に取る。


「何書いてありました?」


「借金日記」


「借金…」


「まあ日記なんだけど、書いてあることは借金のことばかりだったから。随分、借りてたみたいだな。村中から借りてる。借りてない家はなさそうなくらい」


「あ、ああ…そうなんだへえ…」


 八神家が他の家よりも地味で財産めいたものがないのは、そんな歴史があったからなのかもしれない。子孫は先祖に思いを馳せた。


「けっこうな土地を担保にしてて『いつか取り戻せるさ』っていう楽観的な記述が多くあるけど…見る限りは取り戻してないだろうな」


「でしょうねえ。土地って言っても、ってくらいですよ。かろうじて今は山があるけど」


 桜の方もおおまかに確認し終えたようで、内容を発表する。


「こちらも日記みたい。だいたい借金の話」


「そうなんだあ…解読ありがとう…」橘平は礼をいい、桜は「じゃあ次の読むね」とまた解読に取り掛かる。


 橘平は両手をあげ、どん、とソファにもたれかかる。


「まさかのご先祖、借金まみれ」


「自分の家の事ってさ、意外と知らないもんよね。私もわかんない」


「向日葵さん本家でしょ?」


「実はね」


「二宮さんちって結構でかいっすよね。歴史も財産もいっぱいありそう」


「興味ないわ。跡取りじゃないから知らなくてOK。ねえ、料理って何作りたい?」


 と、向日葵は橘平の脇をくすぐる。ぎゃーやめてと大笑いする様子を葵は横目で一瞬見る。


「あはははは!あああ、か、かかか唐揚げ!あれを自分で作れたら最高ですー!」


 彼女はくすぐりをやめ、「おお、じゃあ唐揚げ教室開こう!買い出しからね。そーいうの大事だから。いつがいいかな~」スケジュール帳を確認した。


「スーパー行くんすか?」


「そだよん。材料を選ぶところから、私の料理教室ははじまるのよ~」


「へー、おもしろそ。料理の材料なんて買ったことないや」


「ママとスーパー行かないの?」


「たまに行くけど、野菜とか見ないし」


「見て見て!よし、いろいろ教えてあげるからね~」


 話題が唐揚げ教室の内容から、「そういやさ、バレンタインって女の子からたくさんもらったの?」「義理チョコをたくさん」とこの間のバレンタインに移ったころ、桜が「あら」と声を出した。


 もう一人の古文書読みは手を止め、桜の史料を覗き込む。


「何か見つけたか?」


「家系図なんだけど…」 


 桜は比較的近代に近い箇所を指で示す。


「ここ。幕末、明治?八神家から一宮家へお嫁に行ってるの。珍しい」


「珍しい?なんで?」


「うちね、お嫁さんは外の街から娶るって決まってて。村の女性とは結婚させないって決まりがあってね」桜は首を傾げ、「知らなかったなあ。家系図見たことあるけど、村の人は居なかったはず」


「お妾さんかもよ。そーいう人は一宮の記録には残らないでしょ、多分だけど」


「あーその可能性もあるね。へえ。まもりさん、だって」


「その人が嫁に行った時期って、妖物が凶悪化した時期と重なるな」


 妖物は過去に一度、現在のように活動が活発化したことがあった。


 その時代に、八神家の女性が一宮家に嫁、もしくは妾として入っている。


 そして現代。また妖物の脅威が増している今、八神家の少年が3人の前に現れた。


 これは偶然なのか、意味があることなのか。葵は橘平に視線を移す。


「ああ、まもりさん!聞いたことあるよ、ひいじいちゃんから」


「ちょ!有力そうな情報じゃない!話して話して」


 有術は残っていないはずで、歴史ある資産も土地もない。昔は借金だらけだった八神家。まもりとは一体どんな人物だったのか、3人は興味津々で橘平の話に耳を傾ける。


「まもりさんは一度お嫁に出たけど晩年?に出戻って、それから亡くなるまで八神家にいたんだって。ひいじいちゃんは子供のころ、その人に面倒みてもらってたんだってさ。まもりさんの書くお守りはよく効いたらしくて、幸せな気持ちになれる、心から守ってもらえるものだったって。ああ、あと手先がとても器用だったとか。なんでも作れるって」


「ふーん。そういえば、きーちゃんのお守りもほんとよく効くもんね。その人の血を色濃く継いでるのかも~あ、また書いてよ!」


「そんなに効くの?私も書いてもらおうかな。安全運転守り」


「喜んで!」


 八神のお守りはよく効く。橘平は人の役に立てたことが嬉しかった。


 確か向日葵は前回も「なんかね、いいよあれ」と話していた。ただの「おまじない」の類だと軽く考えていた橘平だが、現代まで残り続けているということは、なにがしかの効果や意味があるのだろうと思った。


 そういえば、この間のお守りは効いたのだろうか。橘平は聞きたくなった。


「ねえ向日葵さん、この間のお守りも効いた?」


「この間?ああ、あれは……」


 向日葵は橘平の呪文とその後を思い出し、顔も首も耳も、全身真っ赤になってしまった。


 その様子に、橘平は自分の口の軽さを呪った。葵と何かあったのだろう。


 しかし、すでに皆の前で質問してしまったあと。時間を戻すことは不可能だ。


「あ、あ、あの」


 向日葵は口を滑らせた少年の腕を引っ張り、そのまま部屋の外へ引きずっていった。


「…何があったのかしら…」


「便秘が治りますように、って書いてもらったんだよ」


 史料を読みながら、赤面の原因はさらっと答える。


「あ!そ、そうなんだ…それは…恥ずかしいよね…出ました、とか、まだ詰まってるとか言えないしね…」


 桜も素直なので、その嘘のような冗談のようなウソを簡単に受け入れてしまうのであった。

<参考文献>

田中圭一『百姓の江戸時代』筑摩書房、2022

荒木仁朗『江戸の借金―借りてから返すまで―』八木書店、2023

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