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第14話


「どういうこと?」


 白崎を見下ろし、冷たい息を吐く。俺たちを避けて人々が電車に乗り込んでいく。


「別れたいって言ったのは君の方じゃん」


「そう、だけど」


「何?」


「……するから」


「え?」


「浮気! めちゃくちゃするから」


「……」


 呆れた。それを承知で岩島に靡いたんじゃなかったのか。わかりきっていたことを、何を今更。


 話にならない。


 無視して電車に乗ろうとしたが、無情にも目の前でドアが閉まってしまった。


「はぁ」


 バツの悪さを感じながら椅子に座ると、一つ空けて白崎も座った。


「付き合ってた頃、よく一緒に電車乗ってたよね」


 やめてくれ。思い出したくもない。


「黒部くん、いつも私のこと座らせてくれて、些細なことだけど嬉しかったなぁ」


「……やめてくれ」


「黒部くん、いつも優しかったよね。それに比べてあの人、本当に自分勝手で、私なんていつも我慢してて」


「やめろ!」


 ホームの空気がピンと張りつめ、示し合わせたように静寂が訪れる。


「大声出さないでよ。どうしたの?」


 どうしたの、だと?


「大丈夫? 具合悪いの?」


 誰のせいだと思ってる? いっそぶん殴ってやろうか。


『マスター』


「っ!」


 ユリの声が聞こえた気がした。いつも真っ直ぐに俺のことを考えてくれている、ユリの声が。


「……悪いけど、復縁は出来ない」


「……やっぱり、そうだよね。こんなクズみたいな女、捨てられて当然だよね」


「あの人たちはそういう風に被害者ぶることはしない」


 次の電車がホームに入ってくるアナウンスが響く。


「えっ、いや、別に、そういうわけじゃないんだけど」


「それ以外に何がある。好き勝手生きて、都合が悪くなったら被害者ぶって、それで同情してもらえるとでも思ったか? 卑怯だと思うよ。そういうの」


「ねえ一回落ち着いてよ。私が悪かったから」


 目を凝らさずとも白崎の身体から真っ黒な煙のようなものが立ち上っているのが見える。


「俺はもうあんたみたいな人に振り回されない」


「ちょ、ちょっと待って、黒部くん」


「好きな人がいる」


「っ!」


 俺の後を追うように立ち上がった白崎は、目を見開いて拳を固く握り締める。


「好きだと言ってくれる人がいるんだ」


「……そっか」


「それじゃ」


 電車に乗り込み、縋りつくように吊革に掴まる。


 視界の隅、まだ俺をじっと見ている白崎のことが見えたが、見えないふりをしてスマホに視線を落とした。


『好きな人、いたんですね』


 俺は思わず失笑してしまって、すぐにユリに返信する。


『嘘、ついた』


『つくづく自分が嫌になる』


 少し経ち、電車が動き出した。


『今夜は月が綺麗ですから』


 何故かユリのあの快活な声が脳内に響く。


『一緒に見ながら、ゆっくり歩いて帰りましょう』


 加速し始めた時計の針を力づくで遅らせるようなユリの言葉は、火照った身体にゆっくりと染み渡った。


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