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第10話

姫のポテンシャルは無限大です


「じー」


 待ち合わせ場所の池袋駅に着くなり、姫は少し息切れしている俺をじっと見つめてくる。


「???」


 服装は多分問題無いはずだ。アウターは無難なジャケットで、ズボンは地味だけどシルエットが出る物を選んだ。髪のセットも……問題無いはず。


「な、何?」


「……修司、印象変わったね」


「え?」


「だって、前までならバチバチのキャラTドヤ顔で着てきてたじゃん。変わったよ」


 本当は今だってそうしたい。だけど、俺も少しは姫に見合うようにならないといけないと思って。


「そ、そうかな」


「そうだよ……もしかして、無理してる?」


 ドキッ、一瞬心臓が跳ねるが、悟られないように愛想笑いを浮かべる。


「いやいやそんなわけないよ。何でそんな必要あるのさ」


「まあ、それもそうか……パソコンも、入ってない」


 姫は俺のリュックをぽんぽんと叩いて硬いものがないか確認する。


「何だよさっきから。変なの」


「へ、変じゃないし! ただ、ちょっと心配だっただけで」


「何が?」


「えっ? いや、別に何も」


 何故だろう、少し気まずい。


 何とか空気を変えようと、俺は姫の服装に目を向ける。


「姫の服も、似合ってるよね」


「は、はぁ⁉ 別に、そんなでもないけど」


「いやいや本当に。つくづく高校の頃からは見違えたよ」


「ふーん……どんなところが?」


「え?」


「どんなところが、良いと思った?」


「うーん」


 正直、女の子の服の名前は一ミリもわからない。精々道行く女子たちの服装をチラ見して流行をぼんやりと把握する程度だ。


「なんかこう、ピチッとしてて、それでいてフワッとしてて、姫のスタイルの良さが前面に出ていて良い……みたいな感じ?」


「……」


 イケてない男の奮闘虚しく、姫はうんざりといった表情でため息をついてしまう。


「あー、はいはい。期待した私が馬鹿でした」


「えっ⁉ ごめん、あんまり服とか詳しくなくて」


「そうじゃなくて……! なんか寸評もキモかったし、何なのよもうっ」


「ご、ごめん」


 姫は俺の顔をチラッと見ると、何故か少しニヤッと笑い、俺に背を向けた。


「あんた、私をがっかりさせたんだから」


「え?」


「罰として一緒に服、選んでもらうから」


「……もちろん!」


 言われなくてもそのつもりだ。きっとそんなことは姫もわかっているのだと思うが、変に貸しを作らない辺り姫は本当に良い人だと思う。


「ほら、ぼさっとしてないで行くわよ」


「ちょ、待って!」


 女の子の買い物に付き合うのは退屈だと言う男もいるだろう。しかし俺の場合は決してそんなことは無い。


 何故なら姫は本当にスタイル抜群で、何でも似合って、反応もすこぶる良いからだ。


「姫っ! 次は革ジャンとかどう? さっきのジーンズと、このキャップ! めっちゃくちゃ雰囲気変わると思うよ!」


「んなぁああもうっ! あんた大人しくしてなさいよ! 姫姫うるさいのよ!」


「だ、だってこんな機会滅多にないじゃないか! ねえ、着てみてよ!」


「んあもうっ! 第一ねぇ、あんたセンスがちょっと古いのよ! なんか一昔前って言うか……おじさんくさい!」


「がーん」


「あのぉ、お客様ぁ」


 店員さんの声、弾かれたように振り返ると、心底申し訳なさそうな女性の店員が立っていた。よく見ると、店内の殆どの人が俺たちを見ている。


「は、はい」


「デートのお邪魔はしたくないのですが……もう少しお静かにお願い致します」


「デッ……」


 デー、ト? デート? 俺たちが、カップルに見える?


 驚きの中で姫を見ると、姫は俺以上に顔を真っ赤にしていた。


「これ、買うので」


「はい?」


「これ、買うのでっ、お会計お願いします!」


「は、はい。かしこまりました」


「姫、良いの?」


「うるさいっ、あんた出しなさいよ!」


「か、かしこまりましたぁ」


 その後なんやかんやあって、革ジャンに身を包んだ姫と俺は、適当なカフェに入って英気を養っているのだった。


「……あんたさぁ」


 ブラックコーヒーをストローで吸い上げ、ため息混じりに姫が口を開く。


「は、はい」


 怒られるっ。


「ほんと、面白いよね」


「えっ?」


「だって、あんな他のお客さんいる中で、いつもみたいに姫姫って、ほんと、空気読めないって言うか……ふふっ」


「ひ、姫?」


「ふふっ、あははははは!」


 そして終いには、姫は人目も憚らず大声で笑い始めてしまった。


「店員さんのあの困り顔、胸抉られるっての。あーお腹痛い」


「怒ってない?」


「ん?」


 姫はもう一口ブラックコーヒーを飲み、頬杖をついてにんまりと笑った。


「怒ってるように見える?」


「……いいえ」


「ふふーん、何だその顔はぁ? うりうり」


「ちょ、やめてよ」


 靴のつま先で膝を突っつかれると、申し訳なさとくすぐったさで変な顔になってしまう。


「……今日、来てくれてありがとね」


「……こちらこそ、誘ってくれてありがとう」


 そう言ってバッチリ目が合った後、姫は口を隠して目を泳がせる。


「あのさ」


「ん?」


「今日、なんか適当に買い物して、解散って話だったじゃん?」


「う、うん」


「その後もさ、良かったら……」


『ピコン』


 そのとき、俺のスマホから通知音が鳴る。


「……見て良いよ」


「あ、うん、ごめん」


 お言葉に甘えてスマホを見て、俺は目玉が飛び出そうな程仰天した。


『随分と楽しそうですね』


 メッセージの送り主は、ユリだった。


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