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第1話


 皆は自分のパソコンにどんな壁紙を設定しているだろうか。


 昔からずっと好きで、愛していると言っても過言ではないキャラクターだろうか。それともリアルのイケメンや美少女だろうか。自分を奮い立たせる格言も良い。適当に決めてる? 君は人生について真剣に考えた方が良い。


 かく言う俺は十三歳の頃から七年間ずっと、とあるイラスト投稿サイトで偶然見つけた美少女一筋だ。


 雨上がりのスクランブル交差点、かつて強烈な存在感を放っていた高層ビルはツタに覆われていて、割れたアスファルトから飛び出た色とりどりの花々が生を謳歌している。

そんな終わってしまった世界の中、水玉模様の傘を差し、何でもないような顔でこちらを振り返る長い黒髪の少女がいた。


 反論の余地が無い一目惚れだった。


 俺はその少女に「ユリ」と名前を付けた。


 ユリの花言葉は純潔、無垢、威厳、ピッタリだと思ったからだ。ピッタリだと思ったからだ。二回言ったのは異論を聞く気が全く無いからだ。


 ともかく俺はユリを愛していた。


 そう、愛していた。


 今の今まで。


「……」


 ノートパソコンのファンの音だけが聞こえている部屋の中、俺は、何故か制服ではなくスクール水着を着て、画用紙に何やら一生懸命に絵を描いているユリを見下ろす。


「……何だこれ」


 俺に見られていることにやっと気が付いたらしいユリは、ハッと声が聞こえてきそうな程驚きの表情を浮かべ、足元の傘を急いで拾い上げて何事も無かったかのように定位置についた。


 いや、無理だろ。どう考えても無理だろ。


「声聞こえてんのかな」


 一周回って冷静になっている俺は、素早くマイクの端子をパソコンに繋ぎ、思い切り息を吸う。


「全部見ちゃいましたけど!」


 俺の困惑を肺一杯に込めたその声はどうやらパソコン内一杯に響いたらしく、両手で耳を塞いだユリはひどくあたふたしている。


 そしてユリは先程まで自分が書いていた画用紙を徐に拾い上げた。


「何だ?」


 ユリは一瞬の躊躇いの後、一生懸命に背伸びをしてその真っ赤な顔と共にその絵を俺に掲げて見せる。


『♥』


 紛れも無い、ハートマークだった。


「よし、寝よう」


 俺はパソコンをスッと閉じて部屋の電気を消し、ベッドに潜って目を閉じた。


 こんなときは俺の日常でも思い返して落ち着くのが一番だ。


 思い出せ、俺はどこにでもいる平凡な男子大学生だったんだ。


 続く。



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