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宇宙船団パラデア

出航

作者: 針沢ハリー

 この短編は、一度書き上げたものの、どうにも収まりが悪かった長編作品を、じゃあ短編集にしてみよう! と思いたって書き始めたものです。

 そんなわけで分かりにくい場面もあるかと思いますが、短めなので、お付き合いいただけると嬉しいです。


タチバナは、ほとんど駆け出しそうな速度で歩いていた。


そうでもしないと行く先々で捕まって、とても仕事にならないからだ。



元妻との通信は、あちらが一方的に接続を切ることで終わった。


そうか、勝手にするがいい。


『政府の船に乗るつもり。そちらの方が安心だし』


どこが? こちらの方がよほど安全だ。

やつらはワープだの、光速航行だの、無駄な研究にばかり時間を費やして、実用的な実験や検証をまともに始めてから、まだ十五年も経たない。


『それに、あんたが基幹船の船長を務める船団だなんて。どこにいても監視されるじゃない。気持ち悪い』


ああ、そうだな、たまには元気にやってるか、確認くらいはするだろう。だが、それはお前じゃなくて、俺の子どもたちの、だ。


『この前のリーク? あの、階級制度を作るつもりだとか、ああいうのを見てしまうとね』


ああ、そうかい。でも、お前が乗ろうとしている政府の船も同じだぞ。

そうでなくて、どうしてこの人数を武器無しで統率できる?



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



くそっ!

おっと、船に当たるのは良くない。お前は何も悪くない。


「あ、いた。タチバナさん! 大変です!」


逆に今、大変じゃないことが一つでもあるのか?


「あの、あの船の……名前は何だっけな、まあいいや、第二十三番船に乗船予定の一団が、乗船を取りやめると言ってきました」


勝手にさせろ。

キャンセル待ちはいくらでもいる。


「それが、彼らは農業のスペシャリスト達です。なかなかの痛手になりますよ」


そりゃそうだろう、二十三番船は、ああ、俺も名前は忘れた。あの船は水耕農場が主な産業だ。

同じ属性の人間を乗せろ。それで解決だ。


ああ、やつらは一度登録したんだ。代表者を「パラデア」に来させろよ。登録を解除させないと。


面倒くさがったりしたら、脅せ。何年後か、何十年後か知らないが、他の船に乗りたくなった時に一人残らず乗船拒否されるぞ、と。


「分かりました。でもどうですかね。えらい頑固な感じの代表者で。ずーーっと、船長さえ、ちゃんと対応してくれたらってうるさくて」


なんだそれは。一向に乗船して来ないやつらなんぞ知ったこっちゃない。もう一年も前から搭乗を開始してるんだ。こっちは乗船し終わったやつらの世話で手一杯だ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「タチバナさ〜〜ん。そろそろオーナー会議のお時間で〜〜す」


おっと、しまった。もうそんな時間か。ん? おい。まだ三十分あるぞ。


「え〜〜。だっていっつも早めに言えって言うじゃないですか〜〜」


早すぎたろう。


「それにしても、もう一ヶ月もないんすよね。流石の俺も不安になってくるな」


「あ、それ、わかる〜〜」


心配するな。お前たちは何があっても降りられない。一等機関士と、俺の秘書だからな。船長の許可が出ない。


「ですよねぇ〜〜」



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



『やあ、ひどく疲れているようじゃないか』


ええ、問題が山積みですので。

オーナー方は二番船でバカンスですか。羨ましい限りです。


『その呼び方はやめたまえよ。この船には「ユートピア」という名前があるんだ』


『私もタチバナと同じで船の名前なんてどうでもいいがね。そんな事よりも、例の反対派の男が紛れ込んでいた件だが、乗員たちの動揺は治まったのかな?』


ええ、なんとか。カウンセラーと、催眠療法と、薬物療法で。


『それは良かった。まあ、そんな男がいなくても、今後似たような事態は想定されている。予行演習が出来てよかったよ』


『それにしても、もう離脱者は出ないで欲しいものだな。あと六日では、キャンセル待ちの乗員たちを運んでくるのも大変だ』


『まったく、一人、二人ならばともかく、コミュニティごととなると、人数が馬鹿にならないからな。もし大量の離脱者が出たまま出発する事になりでもしたら大変だ。儲けが減る』


『儲けが減るくらいいいだろう。どうせ、じきに意味がなくなる。それよりも労働力の欠如が問題だ。ロボットの数は急には増やせない』


……あの、忙しいんで、雑談するだけなら、仕事に戻りたいんですが。


『ああ、そうだな。タチバナは忙しい。確認が終わったのだから解放してやろう』


では、また明日。



……ったく! ふざけんな!


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。オーナーたちは、いつもああでしょ」


「早くからこの事業を立ち上げてくれたおかげで、今の避難計画がだいぶ楽になったのは確かですしね。人類の救世主だという自負もあるんでしょう」


わかってるよ、そんな事は。

 

「少し時間ありますから、ちょっとでも寝てくださいよ〜〜。まだまだ長丁場なんですから。ねぇ?」


そうだな、そうさせてもらおう。何かあれば呼んでくれ。

せめて、いい夢がみたいもんだ……。しばらくは現実ではいい事なんざ、一つたりとも有りはしないだろうからな。


「悲観的ですよね、船長なのに。タチバナさんて。ここに残る人たちよりは遥かにマシな未来が待ってますよ、きっと」


「いつ崩壊が始まるか分からない中、ここにいなきゃいけないなんて、怖すぎますよね」


それはそうだが……。いや、何でもない。じゃあ、頼んだぞ。





若い奴らは、随分と元気で希望に満ち溢れていて怖いくらいだ。

催眠療法ってのは、本当に効果のあるもんなんだな。


俺は睡眠薬しか使えんが。


カウンセリングなんざもっての外。

どこの誰が、不安に押しつぶされそうになってる船長に命を預ける?

判断力が低下すると言われちゃあ、ほとんどの薬は飲めないし。


ああ、この睡眠薬も効きが悪くなってきたか。でも強すぎても急な事態に対処できない。困ったもんだ。



楽観的になれるやつらはいい。たとえ人為的にであってもな。

深く考え始めたら、正気を保てないやつが続出だ。


こっちも同じだから。

先の予測が完全には出来ない事も。不安定な足元を常に気にしなけりゃいけない事も。


でも、これでいい。

俺の仕事は、人類をこのまま宇宙の藻屑にしない事だ。

足掻いて、足掻いて、少しでも遠く……。もしかしたら存在するかも知れない、新しい、母星を……。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「パラデア」率いる、全四十七艇で構成される船団は、惑星初の出航者となった。


乗員数、実に百二十七万人。


当時としては最大級の避難船団だった。



パラデアは順調に航行を続け、それはこれから避難船に乗る者たちの希望となった。



二十三年と八ヶ月後、パラデアとの通信は完全に途絶えた。


               了

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、星をポチっとしていただけたりすると、大変嬉しいです!


では、よい一日を!

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