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勇者と魔王の(戦わずに終わる)最終決戦!

 

 四天王との死闘に打ち勝ち、ついに勇者たちは魔王城の最奥、魔王の部屋にたどり着いた。

 大扉を開けて勇者が中に入る。戦士、魔術師、僧侶が後に続く。

 魔王は足を組んだまま勇者たちを見下ろしている。

 玉座に座っている魔王に勇者は剣を突き付けた。


「ようやく見つけたぞ、魔王! 今日こそお前を倒し、世界を救ってみせる!」

「魔王! アンタのせいであたし達はお尋ね者よ!

 アンタを倒さなきゃ牢屋にぶち込まれるの! だから死んで頂戴!」

「エルフの里を救っていただいた恩は忘れません。

 ですが、あなたは今や世界の敵。ここで引導を渡します」

「神は仰っています。勇者様の進む道こそが正しい道なのだと。

 ご安心ください。丁重に葬って差し上げます。

 埋葬でよろしいかしら? それとも火葬?」


 勇者たちがそれぞれの想いを述べた後、玉座に座った魔王は高笑いし始めた。


「フハハハハ! わらわこそ待ちわびたぞ、勇者よ!

 この日をどれだけ待ったことか! この手でお前を殺すのを!

 お前に絶望を、苦痛を、呪いを、与えよう。

 常に輝くお前の魂を濁らせよう。

 生を呪い、仲間を呪うお前の姿を見せつけ、お前を信じる仲間を幻滅させてみせようぞ!」

「そんなことさせるものか!」

「お前に魔王の力を、神にも届きうる我が力を見せてやる。

 無限の闇を相手にする不毛さを思い知るがいい。

 さぁかかってこい、勇者よ! ()()()()()()()()()()()()()

「「「「えっ?」」」」

「あっ……。

 待った。今の無し。

 えー……、こほん。

 お、お前たちをぶっ殺してやる!」

「いや、言い直しても無かったことにはならないぞ、魔王」

「……ダメか?」

「ダメだ」

「無念だ……」


 魔王は観念したように目を閉じた。額を冷や汗が流れる。

 勇者は魔王の最後の言葉の意味がまだ理解できていなかった。

 眉をひそめて魔王に言う。


「どういうことだ?

 僕たちを倒して人間を支配するのが魔族の野望なんじゃないのか?

 僕を殺した後で魔王が死ぬ意味は無いのでは……?」

「それは、そのぉ……、なんていうの、言葉の弾みって言うか、綾……?

 そう、言葉の綾って言うか……」

「なんて言ってるか聞こえない」

「すまん……」


 魔王は落ち着きなく人差し指をちょんちょんと合わせている。

 勇者の頭上には『?』が浮かび続けている。

 しかし、勇者の後ろであれこれ話していた仲間たちは正解にたどり着いたようだ。

 妙に納得したような表情で一歩前に、勇者の隣に進み出た。


「なるほどね」

「納得です」

「全部わかりました」

「や、やめろやめろ! そんな生温かい目でわらわを見るな! 何じゃ気持ち悪い!」

「勇者様」


 僧侶が微笑みを浮かべて、勇者に声をかけた。

 左手と右手でTの字を作る。


「なんだ?」

「タイムです」

「は?」

「タイムです。ちょっと待っててもらえますか?

 私たち、魔王様とお話しすることがあるので」

「え? え? ……は?

 あ! 危ないぞ!」

「大丈夫。大丈夫です」


 呆然とする勇者を放っておいて、勇者の仲間たちはスタスタと玉座に近づいて行った。


「な、なんじゃ貴様ら……。薄気味悪い笑みを浮かべて……。

 ち、近づくな! 怖い!」

「ずーーっとおかしいと思ってたんだよね。

 あたし達が勇者とイチャついたときだけ、やたら魔物とか魔族が出てくるしさぁ……」

「きっと常にモニターか何かで見ていたんでしょう。

 勇者様イケメンですからね。好きになっちゃいましたか?」

「それで魔物けしかけるって……。

 公私混同なんて、はた迷惑な魔王ですね」

「や、やめよ!

 わらわには全然! これっぽっちも心当たりなぞ無いが、やめよ!

 とにかくやめよ!」

「焦ってますね。可愛い」

「アンタ、そういうキャラだったんだなー」


 戦士、魔術師、僧侶は玉座に座った魔王を取り囲むとグルグル回りながら話しかけ続けた。

 彼女たちが何かを言うたびに魔王の顔がどんどん赤くなっていく。

 勇者はその様子を見ながら呆然と突っ立っていた。



 ***



 その後。

 色々あって、魔王は勇者によって倒された。

 色々あって、勇者が次の魔王となり、仲間と倒された魔王が四天王になった。

 色々あって、魔族と人間は終戦することになった。


「ハッピーエンドね!」

「ですね。まごうことなきハッピーエンドです」

「私はもう少し、こう……王様を血祭りに挙げたりとかしたかったのですが……」

「僧侶さんってたまにホントーにおっかないですよね」

「たまにじゃなかろう。こやつは常に怖いぞ」

「ふふふ……、前魔王様も言うようになりましたね~。

 最初は猫のように大人しかったのに。懐かしいくらいです」

「うぅ……。わらわ、やはりこやつはまだ苦手じゃ……」


 物陰に隠れる前魔王とそれを笑いながら追いかける僧侶。

 お菓子を食べながら雑談している戦士と魔術師を見て、現魔王はため息をついた。


「……なんでこんなことになったんだろう」

「不満なの?」

「全然」

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