表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/88

決着!周蘭の運命

一方、周蘭は覚悟を決めて、虎視眈々と復讐(リベンジ)の機会を待っている。


彼は撤退を余儀無くされた時に、虚勢を張った。


全ての責任は自分が取ると…。


そこで項它と李心の主力7万を楚国内に無事に送り届けると、2人にこう提案した。


自分はここで武人の責任を果たす。


項羽様(陛下)にはその旨、お伝えあれと!


項它も李心も勿論、止めた。


それでも周蘭の決意は揺るがない。


為らば、兵力を割いて与えるから、受けてくれ…そう援助を申し出た項它の言葉も断った。


「貴方様が与えられた兵は、そもそも陛下の大切な兵です…それを私のために失なう事は出来ませぬ。」


周蘭は落ち着いた様子でそう項它を説いた。


「為らば私の軍は…私の兵は遊軍ですから、判断は私に任されております。私は結局、今の所、何の寄与もしておりません…周蘭殿のお役に立つのならば、我が軍を割いても良いのです!」


李心は結局、田横の追跡を諦めた事で、周蘭の命じたお役目を果たせなかった。


その心持ちが言わせた心配りであったのだ。


ところが周蘭はそれをも断わる。


「否、お前の判断は正しかった。それは撤退時にも伝えた通りだ。あのまま追い掛けていては、こうして項它様を…我らが大将をお守り出来なかった。お前の判断は正しかったのだから、その善き判断を持って、お主の役目はこうして果たせたではないか?私は、命じた通り、項它様をお救いしたお前の判断を誇りに想っておる。だから、お前もそれを誇りとせよ!自信を持って、此れからも陛下に尽くすが良いぞ♪楚のためには今後、兵は大切であるから、こんな所で失う事は無い。此れはあくまで私の責任を全うする一如であり、私憤を晴らす事でもある。巻き込む我が兵と龍且様の兵には申し訳無いが、我らだけでやらせて貰うゆえ、あなた方はそのまま、陛下に復命されよ!この周蘭が命を賭けて責任を全うしますとな!」


項它も李心もその後も懸命に、説得を続けてみたものの、彼は翻意しなかった。


周蘭の決意は揺るがなかったのである。


そこで2人は周蘭の健闘を祈ると、彭城に向けて撤退して行った。


此れが正に今生の別れとなる事を理解していた。


李心は涙する項它を支えて、周蘭の命じた本質を理解すると共に、全うしたのである。


彼らが無事に去ると、周蘭は配下を集めて覚悟を決めさせた。


ここでどの軍が追い掛けて来るかは判らぬが、一矢報いてやろうと!


周蘭は韓信軍も高密城に籠る田広に対する必要も有り、斉の南方の攻略も有り、全軍では追い掛けて来ないと踏んでいた。


但し、一軍は必ず寄越すだろうから、楚国内に入って、ほぼ既に安全は間違い無いとはいえ、ここで自分達が踏ん張れば、依り主力を無事に逃がす事にも貢献出来る。


謂わば、殿(しんがり)を買って出た訳だ。


そして、龍且の弔い合戦にも為る。


龍且だけで無く、周蘭にとっては小飼の軍団長たちの弔い合戦でもあるのだ。


周蘭はだからと言って、自棄(やけ)(くそ)に為っている訳でも無い。


自分の利点は理性的である事、そして小賢しいと言われても構わない程の、策謀もある。


周蘭は此れが決して自暴自棄に依る抗戦では無い事を皆に伝えた。


そしてその準備を徹底させた。


次々に指示を出して、抗戦の準備に入る。


その準備の一環として、兵全員に、薬を配布した。


例の穣苴から貰った怪しげな薬である。


痛み止めは戦場では必要不可欠だ。


傷を負った時に助けとなる。


だから周蘭はこの時のために、使わず溜め込んでいたのだ。


此れは成分が阿片(アヘン)なので、重傷者がいない限りは、周蘭すらも使いたくはなかったのだが、ここでは重宝するに違いない。


彼は兵たちに薬を配り終えると、皆に告げた。


「此れは元々痛み止めだ。傷を負った時に身体を麻痺させる効果がある。此れを皆に飲んで貰う。無論飲むタイミングも、飲むか飲まぬかも個人の判断に委ねる。強制はしない。しかしながら、飲んだ方が良いぞ!痛みが無ければ、それだけこの場を支えられるし、主力も逃げ切れるだろう。まぁ、端から死ぬつもりは無い。策が填まれば、我々も意気揚々と凱旋出来よう。我々が胸を張って凱旋するには功がいるのだ…何しろ派手に壊滅したからな…陛下の御恩に報いるためにも、ここはひとつ派手にぶちかますとしようではないか?ここに龍且・周蘭軍在りと皆に知らしめよう♪(*´▽`)…」


「「「お~お~!!」」」


兵達は歓喜した。


彼らもやられたままでは気持ちの落とし所が無い。


殆どの兵は揺るぎ無い気持ちで周蘭を支持した。


(^。^;)まぁ中には死にたく無い人も当然いるけどね…。


彼は地の利を生かした罠を組み合わせて、対応を完了させた。


前衛は盾と長槍で騎馬の突撃を防ぐ。


そしてその一環としてある罠を設けておく。


さらには街道沿いの林の中に、弓兵と長槍兵を埋伏させた。


街道に陣取る兵にも一斉に矢を放てる様に配置を完了させて、騎馬と共に自分は背後に陣取り、相手の兵を粗方削いだら、突撃を敢行する。


弓を放った後に歩兵たちも突撃だ。


此れが彼の戦略だった。


付け焼き刃の準備としては悪く無かろう。


こうして周蘭側は準備を完了して、待ち構えていた。


「将軍!漢軍がやって来ます!漢嬰の旗が立ち、兵力は7000程の模様!」


「判った!皆、配置に付け、奴らを迎え討つぞ!」


「「「お~!!」」」


周蘭の号令と共に楚兵は皆小走りに下がり始める。


そして一部は街道の反対側に散る。


前衛は盾を並べて迎撃に備える。


兵達は皆、弓を持ち、放つ用意を完了させた。


『漢嬰か…願っても無い!あやつには仮があるからな…倍にして返してやるわ!』


周蘭は眼を怒らせながら、その瞬間を待った。


そこへ漢嬰が7000の兵力で襲い掛かったのである。


周蘭は漢嬰が接近して来るのを見定めており、弓隊への合図の時を測っていた。


『まだだぞ…良く引き付けるのだ!』


周蘭はじっと耐えた。


タイミングが狂うと目も当てられない。


ところがそんな時に、街道の左右から矢が一斉に斉射された。


街道のど真ん中で矢を構えていた兵は次から次へとバタバタと倒れて行く。


『此れはどうした事だ!伏兵はどうしたのだ?』


周蘭は始め裏切りを頭に描いたが、直ぐに消し去る。


十分に清算は在ったのだから、そんな筈は無いと!


「良く狙え!射ったら直ぐに下がれ!」


『宋中か…』


周蘭は宋中の声を聞き知っていた。


項羽と劉邦がまだ味方同士で在った時に直接話した事が在る。


『くそう…またあいつか!小賢しい!!』


周蘭はかつて定陶(ていとう)の戦いで、宋中の知略にやられている。


そもそも龍且と周蘭のケチの付け始めがあの戦いでも在った。


周蘭は万全の態勢で漢嬰軍を待ち構えていた筈なのに、肝心の伏兵は既にやられて、弓隊も街道のど真ん中で待ち構えていた事が裏目に出て、左右からなら、(てい)の良い的に為ってしまう。


そんな事を考えている間にも、兵は弓も射てずにバタバタと倒れて行く。


尚且(なおかつ)、漢嬰軍はどんどん迫って来る。


周蘭は難しい采配を余儀無くされ、左右に当たる兵を割かねばならなかった。


このまま宋中の好きにさせていては、全滅の憂き目に遇う。


周蘭の指示に依り、前衛は盾を構えて漢嬰騎馬隊を迎え撃ち、兵は左右の攻防に一部を割く。


宋中は無理をせずに、兵を下がらせて、周蘭軍の一部を引き付ける様に退いて行く。


遂に漢嬰騎馬隊は間近まで接近して来た。


周蘭はそれを固唾を呑んで見守っている。


漢嬰は何事も恐れる事無く、突き進んでいる。


宋中の別動隊の動きに、少し遅れて動き出した漢嬰は、もはや街道の左右から来るであろう伏兵の事は念頭に無い。


それだけ宋中という()に替えがたい腹心を、信用しているのだ。


彼に任せておけば心配無い。


もしかすると、正面の敵もうまくすれば削って来れるかも知れないとさえ踏んでいた。


依って速度を下げぬまま、そのまま突入して行く。


変にタイミングをずらすと、宋中の別動隊が各個撃破されかねない。


本隊にも意識を向けさせる必要があったのだ。


間もなく突入というタイミングで、突如、左右から弓の連射が起こり、待ち構えていた敵兵は、バタバタと倒れてゆく。


周蘭に厳命されているのか、それでも前衛の守備隊は揺るが無い。


コの字型に隊型を少し替えて、左右からの弓を防ぎながら、前方から来る漢軍に備えている。


「宋中の奴、さすがだな…」


濃嬰はこの上出来の展開に満足すると、さらに速度を上げながら右手をグッと突き上げて、号礼を掛けた。


「放て!!」


すると、後から付いて来ていた歩兵が、口の字型に隊型を組むと、一斉に弓を斉射した。


「放て!!」


それにやや遅れる様に、周蘭も矢の斉射をさせる。


空を覆い尽す様な矢の応酬は、接近する互いの中間地点で交差して、中には矢と矢同士で食い合い、折れて、跳ね飛ぶ物もある程、激しい攻防となる。


やがて、交差したまま弧を描いた数千本の矢は、互いの陣営に突き刺さり、大きなダメージを与えた。


それにもめげる事無く、二射、三射と矢の応酬は続く。


漢嬰の前衛である騎馬隊も、馬上で射ち抜かれる者、馬に当たり投げ出される者もいた。


漢嬰は馬上で小さ目の盾で弓を防ぎながら、王翦(おうせん)を励まし進む。


その時である…。


王翦が、蹴った脚に違和感を憶えた様に、バランスを崩しながらも、その地を飛び込えた。


かなり体勢を崩したままながら、片脚で着地すると、そのままの勢いで前衛に対する。


漢嬰がチラッと後ろを振り向くと、街道の中心位置に深い穴が出現した。


『危ないところだったな…』


漢嬰は蟀谷(こめかみ)から冷汗が、ツーっと垂れてくるのを感じていた。


「穴だ!!左右に展開せよ!」


背後の軍長クラスが声を掛ける。


先頭を走っていた漢嬰が罠に掛かったお陰で、多少の犠牲で皆、穴を迂回する。


「くそう…」


最大の罠に漢嬰が墜ち込まなかった事を目の当たりにした周蘭は、歯ぎしりをすると、


「射って!射って!射ちまくれ!!」


と矢の斉射を緩め無い。


漢嬰歩兵隊も弓の応酬を続ける。


そこへドーンと激しい(すい)の一撃が、周蘭軍前衛の盾を弾き飛ばす。


漢嬰だ!!


彼は盾隊を()ぎ倒すと、そのまま(すい)を上下に振り降しながら、楚兵を削って行く。


そしてそれに元気づけられる様に、漢嬰軍は突入し、弓を槍や剣に替える暇が無かった楚兵を、前から順示潰していった。


周蘭はそれに対応する様に、突撃の指示を下し、騎馬隊も左右に展開させて、応戦した。


両軍入り乱れての乱戦になるも、後手後手に廻る事になった周蘭軍は、だんだんと士気が落ちてゆき、次第に劣勢に墜ち入ると、いつの間にか囲い込まれて、街道の一ヶ所に押し込められてしまった。


途中、退いていた筈の宋中の別動隊も、然り気無く舞い戻り、背後を塞いでしまったので、周蘭は逃げ道さえも遮断されてしまった。


口の字隊型でしばらく応戦した周蘭だったが、目の前で槍に刺し抜かれて、血反吐(ちへど)を吐いて死んで行く、仲間の兵の死を見るにつけ、戦意を失う。


「皆、止めろ、武器を置け!降参だ!降参する…」


周蘭は両手を上げると、敵・味方に叫び続けた。


「攻撃やめい!!皆下がれ!」


その瞬間に、事は決した。


漢嬰は皆殺しするつもりなど毛頭無く、周蘭の降服を待ち侘びていた。


そのため、即時戦闘は中止されたが、周蘭を始めとする楚兵の生き残りはわずかであった。


周蘭は味方の兵を掻き分けると、漢嬰の前まで進み出て、膝を折る様にペタンと座り込んだ。


そして額を地面に擦りつけると、


「この敗戦の責任は全て私の指示にあります。兵は私の指示に従ってくれただけ。その罪は全て、この私が負いますゆえ、生き残った者にはどうかお慈悲を願いたい。どうかこの通り…」


そう言って何度も額を地面に叩きつける様に、頭を下げた。


漢嬰は王翦から下馬すると、周蘭の(かたわ)らに寄り沿い、その肩に手をかけた。


「周蘭殿、貴殿はよく奮戦された。勝敗は兵家の常…戦いはもう終わり申した。この上はこの漢嬰、貴殿方の降服を受け入れますぞ。生き残った者には、命は保証致しましょう。傷を負った者達には、手当てを致そう。その上で、帰りたい者には帰城を許しましょう。我らも捕虜の扱いには困るゆえ、手当てを終わり次第、引き揚げさせていただくが、負傷の有無に(かか)わらず、着いて来たい者は連れて行きましょう。その代わり、漢に下る者だけに厳定します。残る者は、その場から去るも戻るも、好きにして貰って結構!勿論、きっちりと武装解除はしていただきますので、悪しからず!それで如何ですかな?」


周蘭はその言葉に顔を上げるや、感謝の意を示した。


「有り難い。此れで何の憂いも無くなった。後はこの身は好きにして貰って結構!釜茹での刑でも(はりつけ)でも、貴殿の想うままにされるが良い!」


周蘭ははっきりとそう告げた。


彼には最早(もはや)心残りは無かった。


やるだけの事はやったのであり、及ばなかったのだ。


彼の心残りがあるとすれば、濰水で生き残った仲間達を、再び死なせてしまった事だけだった。


だからこそ、彼は責任を取る覚悟は出来ていた。


すると額に(しわ)を寄せて、神妙な面持ちでその言葉を聞いていた漢嬰は、相槌を打つと言葉を続けた。


「勿論、言われ無くとも、貴殿には責任を取って、捕虜になっていただく。但し、貴殿だけだ。生き残っていれば副官であっても、その身は自由!それで宜しいかな?」


周蘭は再び頭を下げると、


「重ね重ねの御配慮に感謝する…」


そう言って、胸許から薬の束を取り出すと、


「痛みの酷い者には使ってやって欲しい…」


と漢嬰に阿片(あへん)の残りを差し出した。


こうして楚兵の武装解除は順調に進み、両軍の負傷者に対する手当ても並行して行われた。


容態は余談を許さないものの、手当てが早目に取り組まれたお陰で、助かる者も出るだろう。


但し、弓に当たり、或いは一撃をその身に受けた者は多数亡くなっており、両軍合わせて6000人が亡くなっている。


うち、周蘭軍の生き残りは2000人程で在った事を考えると、如何に宋中の索敵と判断、その戦略が正しかったかが如実に示されている。


漢嬰軍にとっては、伏兵の始末とその立地を生かした先制攻撃が、うまく()まったと言えるだろう。


この後、両軍は死者を葬い、埋め終わると、漢嬰は一旦、撤退を命じた。


結局、楚兵は生き残った者のうち、ほとんどの者が、漢嬰に付き従う事を選択したのである。


此れには項襄(こうじょう)の説得が大きく効いていた。


当初は『裏切者』とみる者が多く居たが、劉邦陣営の待遇の良さをみるにつけ、皆気持ちが漢軍に傾いて行ったのである。


此れを見ていた漢嬰は、新たに組み入れた楚兵2000を項襄の下に配置する事に決めた。


その上で、一旦、万が一の追撃を避けるために、斉国内まで引いたのである。


周蘭は両手を粗縄で後ろ手に縛られて、その身柄は項襄が引き受ける事に為った。


こうして、反撃に及んだ周蘭の戦いは終わったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ