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漢嬰突入す

漢嬰軍は夜間戦闘の準備を完了させると、先に物見を放って、濰水を離れた。


索敵をする様に韓信に厳命されているため、余り速度を上げられないが、宋中を信じて進む。


索敵班にはしっかりと宋中を入れて在るので、何かしら遭遇しようもの為らば、直ぐにご注進が入る筈だ!


『宋中の勘を信ずるしか在るまい…頼むぞ、宋中!』


漢嬰にすれば、あれからかなりの時間が経過しているので、運を天に任すほか無い。


一方…宋中は索敵と謂えども、かなり馬を跳ばして、先行して要る。


もはやかなり先に進んでいる事は明らかだ。


どんどん恐れず進まなければ、間に合うものも逃がしてしまう。


但し、彼らは総勢20騎という弱小勢力なので、相手に逆に索敵を受けると、壊滅する可能性も十分有り得るので、楚国内に入ると、速度を必然的に落とさねば成らなかった。


斉国には他国と繋がる街道だけでも13箇所はあるので、楚国に抜けるにも、複数の街道が存在するが、行軍速度を考えた時に、既に楚国内に入っている可能性が高かったので、かなり際どい追跡道中になる。


索敵地点が余りにも彭城に近過ぎると、援軍が出て来る可能性すらも在るので、その場合は、追跡を断念して、次の機会を待つほか無くなる。


時間との勝負というには、既にかなりのハンデがあるので、まともに考えれば、無駄な道行きとなる可能性の方が高かった。


もし仮に索敵班に宋中が入って居なければ、そんなに必死に追い掛ける事もなく、(すみ)やかなる撤退判断と為ったで在ろう。


そこが他の者と宋中の違いであり、彼は漢嬰に手柄を挙げさせるためなら、骨身を惜しまないのだった。


楚国内に入ってしばらく進んだ時の事である。


隊列を整えた一軍の尻が見えて来た。


宋中は『(´▽`)しめた♪間に合った!』とは思ったが、念のため様子を観る必要も在るので、『我、楚軍に遭遇せり!』という口上と位置情報を持たせて、第一波を漢嬰の元に送る。


宋中はその場に10騎を隠して、コンコンと言い含めると、残りを下馬させ、暗闇の中を可能な限り、接近して行った。


待機組には、もし仮に事が発覚した場合には、助けようとせずに、即刻バラけて撤退する様に厳命してある。


要は見つからなければ、良いのだが、相手在っての事ゆえに、そうそう此方(こちら)の思惑通りには為らないだろうから、保険を賭けた訳だ。


4人ずつ2手に別れて、膝を折りながら、背を低く下げて、ゆるゆると進むと、街道沿いとはいえ、かなり近くまで接近出来た。


すると楚兵達が座り込んだまま待機しており、話し込んでいるのが耳に入って来る。


「周蘭将軍も何を考えているか判らぬお人だ。まさかこんな所に罠を張って、追撃部隊を迎撃するとはな…あのお人は元々理性的な方だと聞いていたが、清算は在るのだろうな…」


「さぁな…だがお前さんだって龍且軍の生き残りだろう…周蘭将軍は龍且将軍の盟友だったのだから、(かたき)討ちをしたい気持ちがあるのは判る筈だ。我らからすれば、有難いくらいのもので、反対する理由は無い筈だろう?」


「勿論…それは判っているが、我らは大した兵力では無い。高々7000程の兵力で何が出きるというのか?」


「けど考えてみろ?奴らは1/4の兵力で我らを破ったのだぞ!逆に我らがやれない筈は無かろう?」


「それはそうだが、仮にやるとしても、ここには河は流れていない…他力本願は出来ぬ。余程、清算が在っての事為らば、俺も異は唱えないが、犬死には御免だからな…」


「無論、在るからやるのだろう?だが、仮に無いとしても我らがどうこう言える立場では無いさ…やれと言われればやるほか在るまい。そうだろうが?」


「まぁな…周蘭将軍を信じてやるほか無いか…」


「そうだ!それに我らは、このまま帰れば陛下から罰を受けよう…下手をすれば首が胴から離れ兼ねない。ここで一矢報いるほか在るまい…」


そんな不平を漏らす言葉を耳にした宋中は、一度配下を集めて指示を下す。


「罠が在るかも知れん。再び二手に別れるが、我らは周蘭の所在を探す。お前たちは奴らの兵力を把握せよ!簡単では無いが、周蘭、李心、項它がいるかどうかで判断する。どうやら周蘭はいる様だから、後の2人を探せ!3人とも居れば、奴らの兵力はまだかなりのものだ!恐らく8万近くには為るからな…。」


「しかし…宋中様!奴らは7000でとか言っておりましたぞ…それなら危険を犯す必要が在るでしょうか?」


「(´▽`)それは兵卒の言葉だからな…鵜呑みには出来ぬ…だからそれを確かめるぞ!我らは出来れば罠の方法も探るから…そうだな。一刻もすれば殿が到着する。状況 如何(いかん)(かか)わらず半刻後には集合せよ!」


宋中はそう命じると、二手に別れての行動に入る。


最後尾からググッと進んで行き、隊列を次々に追い抜いて行く。


街道脇の木々や草むらを()っての移動なので、かなり手間が掛かるが、どうやら先頭が見えて来た。


『周蘭だ!!』


宋中は隊列の先頭に周蘭を発見する。


周蘭は腕を組んで馬上で眼を怒らせていた。


『何なんだ…よく判らぬ!何をするつもりなのだ…』


宋中は街道に隊列を停めたままで居る周蘭の意図が今ひとつ飲み込めない。


『此れでは単に玉砕覚悟の体制であり、清算も糞もない…待てよ?帰れぬから死に場所を求めて居るのだろうか…あの周蘭は龍且盟友だったな…とするとそれも有り得るが、それでは先程の兵卒の言葉とは一致しない。いったいどういう事だ…』


さすがの宋中も周蘭の意図を図りかねていた。


そんな時に、街道の草むらからキラリと光る刃を見つける。


『待てよ…兵力は確か7000と言っていたが、それにしては兵力が少なかった。成る程…そういう事か!』


宋中は罠の意図の一端が見えた気がしていた。


そして冷や汗を掻いた。


『こちら側にはまだ兵は伏せていなかったのだな…。となると、もう片側の索敵は断念したのだろう…兵が伏せて在れば先に進めぬ。かといって発見されたら大騒ぎになるだろうからな。撤退は出来たとみるべきだ。となると我らで全ての疑問を解かねば為るまい…こちらの探りは重要となるな…どうするか?』


しかしながら、まだ時間は在る。


先に進むか引くか…いずれこちら側にも兵が伏せられるかも知れない。


そう為れば、撤退出来なくなる。


ここは大切な判断の分かれ目だった。


宋中は一瞬、躊躇したものの、自らを励まして、決断した。


「もう少し先に行ってみよう…だが周蘭がいるから、油断するな…依り背を低くして静かに進むのだ!」


宋中は背後に控える配下にそう命ずると、音を立てぬ様に、周蘭を飛び越して、先を急いだ。


一か八かの道行きに為る。


街道には(しばら)く何も見当たらない。


かなり進んで来たが、人っ子ひとり居なかった。


『う~ん…やはり周蘭だけの計画で、連動は無いのかな?』


宋中は少々焦って来た。


そろそろ戻らねば、時間のうちに戻れないし、帰り道が塞がれる恐れも増す。


まさに決断の時だった。


『ここまで来て見当たらないとなると…大胆な想像で在る事は判っているが、主力の項它と李心の軍はそのまま撤退したと観て良いだろう。それにもう時間も無いしな…良し!撤退しよう…』


宋中は決断した。


「撤退だ!皆、静かに引き上げるぞ、索敵は怠るなよ。下手をすれば帰る道は無いかも知れぬ…』


「その場合はどうするのです?」


「なぁに…心配するな!こちらは森の只中だ…迂回してでも合流するさ♪」


宋中はそう言うと、皆を励まして撤退した。


幸いにもまだ、兵は伏せられておらず、彼らは無事に他の索敵部隊と合流した。


「宋中様、我らの物見は失敗に終わりました。林の中には、兵が伏せられており、弓隊と長槍隊が静かにその時を待っております。そのため、残念ながらそれ以上は前進出来ませんでした。」


「そうだろうな…よく見つからず撤退を決断したな!良いぞ、御苦労だった。我らもその伏兵には気づいたから、より先まで索敵したが、結局、項它や李心の軍は撤退した様だ。あれは周蘭の単独の待ち伏せとみて良い!一矢報いるつもりなのだろう…取り急ぎ殿に合流せねば為るまい、引き上げだ!」


「ははぁ…」


こうして宋中の索敵部隊は、再び騎乗すると、来た道を引き返した。


やがて漢嬰の主力と合流する。


「おう…宋中、御苦労だったな!周蘭が待ち構えて居るそうな…数は?あと狙いをどう観る?」


漢嬰は宋中の報告を(うなが)す。


「殿!周蘭はこの先に約7000の部隊で待ち構えており、街道沿いの林の中には弓槍両隊を伏兵として配置しております。その先まで索敵しましたが、項它と李心の主力は引き揚げた模様…連動は無く、あくまでも周蘭の単独行動だと思われまする。」


「そうか♪すまないな、良くぞこの短時間でそこまで索敵してくれた!7000ならば、我らの1万と大差無いが、士気が違うゆえな…ここは一気に潰してしまうとしようか?宋中、策は?」


「えぇ…まず殿は7000の兵でそのまま進軍をして下さい。3000の兵は私がお借りして、林の中の伏兵を始末します。それで如何(いかが)でしょう?」


「それしか在るまいな…元々多勢に無勢だ!逃げた奴らは放っておこう♪我らは勲功を挙げれば良いのだ!それで責任は果たせるからな…無理はすまいよ!」


「えぇ…そうですね♪殿!但しお気をつけ下さい。周蘭も元々は理性的な人物!気合いだけの龍且とは格が違います。何かまだ隠し玉を、盛っているやも知れませぬ…くれぐれも慎重に!」


「判っておるわ!だがな宋中よ♪時には勢い、此れに(まさ)る…という(たと)えもある。だから、用心し過ぎては、その勢いが削がれる事も在るのだ…言っておくが、此れは龍且 (ごと)きの猪突猛進とは格が違う話しよ!案ずるな…私にはこの王翦(おうせん)がついている!さすがにこいつは走るわ!司馬信殿に感謝しなくてはな♪」


王翦(おうせん)とは…斉国広域戦の時に、馬を射られて失った漢嬰のために、司馬信が差し上げた汗血馬である。


司馬信が汗血馬を中華の士に与えるなど、誠に珍しい事では在るが、それだけ漢嬰の人柄と武人としての振る舞いに感銘を受けたのかも知れなかった。


「この馬は危機を自ら知るらしいからな…自分の命を守るためには、俺の命も救う事だろうよ…」


漢嬰はかなり穿(うが)った見方をする人である。


言い方を変えれば、それだけ現実的だという事かも知れない。


馬が主君を助けるなどという都合の良い発想は元々無いので在る。


「確かに言われてみればそうですな…躊躇と慎重は違いますからね(´▽`)♪殿の判断に(ゆだ)ねますよ♪私は殿を信じておりますから!」


宋中はそう言うと、漢嬰の判断を支持した。


「では!二手に別れよ♪(*´▽`)宋中!伏兵は任せるぞ♪では散会!発進せよ♪」


「承知!(´▽`)お前たちは私に続け!大廻りして、確実に林の中の伏兵を仕留めるぞ♪」


「「「お~!!」」」


漢嬰軍はこうして二手に別れて、待ち受ける周蘭軍に突撃して行く。


決着は如何(いか)に…次回決着!お愉しみに♪

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