後はお好きな様に
さて今回の立役者のひとり…叡鞅である。
彼にも少々触れておきたい。
何しろ、周勃将軍の命に従い、高密城と彭城を監視し、情報を入手した上で、筥城・即墨城の攻撃を止め、民の命を救った。
その後も、濰水の作戦の穴に気づいて、その手当てをした上に、自ら狼煙を上げた。
まぁ、最後の狼煙については、機密保持上…やむを得ずやった事で、本音は関わりたくは無かった様では在りましたけどね(^。^;)…。
彼は一度約束した事は、必ず果たす性分であり、また責任感も強かったので、結果としてその役割はきっちりと演じ切りましたが、やはり自分の合図で、沢山の命が犠牲に為るというのは、耐え難い痛みでもあった訳です。
彼は狼煙竹を受け取ると、それを組み立てた上で、韓信に作戦の開始の合図に、鏡の反射でゴ~サインを送りました。
そこまでは、先に述べましたね(o≧▽゜)o♪
その後、韓信の突入に併せる様に、両翼の漢嬰と曹参も突入して行きます。
ところが、ここで想定外の異変が起こりました。
始めは一番河下側での事もあり、叡鞅も気がついていませんでしたが、何と田黄が先に突出していたのです。
韓信の突入に反応して、龍且や周蘭は動き始めたようですが、田黄はそれと比較してもかなり突出して来ていましたので、どう推察しても、抜け駆けでもしていなければ、計算が合わぬ程に、只一軍跳び抜けていたのでした。
(^-^;『面倒臭い奴…』
叡鞅は少々、厄介な事に為ったと心配していますが、こう為った以上は、各人各様に対応して貰わなければ、どうしようも在りません。
(^。^;)『ま、漢嬰のとこには宋中がいるから、何か対策が或るだろう…奴もなかなかひねくれた性格だから、田黄の相手にはちょうど良かろう…』
叡鞅は、希望的観測も含めて、宋中の力量に期待しつつ、此方はそれに惑わされずに、予定通りの行動を貫徹するのみと、韓信の動きにのみ、意識を集中して、彼が濰水の半場に到達した瞬間を狙って、狼煙を上げたのです。
狼煙竹からは、どんどんと勢いよく、硫黄の煙が、天に向かって立ち上がって行きました。
韓信はどうやら気がついたらしく、反転して、もと来た方角に戻り始めた様です。
叡鞅が実際に確認したのは、そこまででした。
彼がいみじくも語っていた様に、これ以上ここに留まっていると、硫黄の毒を大量に吸い込んでしまう危険があったので、此れも約束通り、とっとと白起に跨がって、山道を跳ぶ様に、撤退したのです。
後は神のみぞ知る…という奴だな(´▽`)♪
叡鞅の任務はここで終了して、後は韓信軍の人達の力量次第といった所でしょう♪
叡鞅は、もはや結果はどう転ぼうが関係は無かったのでした。
やれるだけの事はやったのであり、お手伝いもここまで…そう割り切っていました。
(^-^;そもそも狼煙の件が無ければ、もっと早くお役御免になっていたのだから、後は知った事では無かったのです。
そんな主人の解放感に依る、晴れ渡った心を察したのか、白起も四股に力を込める様に、軽やかに彼方へと跳び去って行くのでした。
『……』
さて、お次は山の手の先にある河上の堰である。
そこには魯毅が山の頂を見つめながら、今か今かと待機している。
彼の配下も既に配置に就いて居て、皆、真剣に副官の合図を待っている。
彼らの仕事はとても地味な作業で、けして目立つ事は無い。
(^o^;)「ある意味目立つと不味いからね…」
只ひっそりと山奥の河辺で、堰を組み立てる作業に没入し、その試験を繰り返して来た。
今日この時だけのために…。
山の奥地ゆえに、敵に悟られる可能性は低いとは謂え、地味な割には命の危険が伴う作業である。
しかも冬場の山の中…それだけでも寒さは厳しいのに、その中で堰を組み立てるのだから、当然、河の中にも入る。
凍てつく様な冷たさに触れると、手は千切れそうに痛い。
脚も具足を身に着けているとはいえ芯から凍える。
そんな中を、只のひとりも文句ひとつ言わずに、口からは白い息を吐きながら、淡々と準備をして来たのである。
昼夜を問わず、交代しながら、彼らが真摯に積み上げて来た成果が、此れから陽の目を見る事になるのだ。
皆、苛酷な環境下での辛い作業で、疲労困憊であろうに、その表情を見ると皆、一様に溌剌とした顔をしている。
達成感ゆえかも知れないが、詰る所、それは彼らにしか判らない心持ちであった。
山奥の河辺に待機する彼らには、緊張感を持続しながら待つ時間が想いの外、長く感じられた。
それでも彼らは辛抱強く、その時を待った。
やがて陽が射して来て、生い茂る木々にもその光が射し込んで明るくなって来る。
まさにそんな時に、山の向こう側から鬨の声が聞こえて来た。
『いよいよ始ったな…』
魯毅の緊張感も頂天に達して来る。
身を切る様な寒さの中、その手には汗が滲んでいた。
「皆、いよいよ我らの出番がやって来たぞ!その成果を十二分に見せる時だ、宜しく頼むぞ!」
魯毅は大きな声で、高らかに宣言した。
皆、笑顔でそれを愉しむかの様に、
「「「「オー!!」」」」
とこちらも元気良く応える。
「魯毅、顔が固いぞ!」
「任せてくれって!」
「そうだ!そうだ!」
配下は皆、魯毅を気遣って、互い違いに声を掛ける。
皆、苦労を共にした仲間なのである。
「そんなに固いかな(^。^;)?」
彼は自分の頬をつねる様な仕草をして、惚けて見せた。
そんな彼の奇妙な顔つきが、皆の笑いを誘う。
「「「「ワハハハハッ」」」」
途端に全員の表情が柔らかくなり、皆、緊張が解れたようだった。
その場が笑顔で満たされた時に、山の頂からは遂に黄色い毒々しいまでの狼煙が立ち登った。
「今だ!堰を切れ!」
魯毅がそう命ずると、皆、一斉に木槌を振り下ろす。
すると、仕掛けが外れて、塞き止めてあった大量の水が、「ゴォーッ」と轟音をあげながら、またたく間に大きな塊となって、押し出され、振り墜とされて行く。
「良し!やった♪上手くいったぞ!!」
魯毅は喜びの余り、右拳を突き上げて、満面の笑みを浮かべた。
皆も笑顔で、この成功に満足しており、互いに握手を交わす者や、抱き合う者もいた。
そしてそれは、彼らの役廻りが終わりを告げる事でもあったのだ。
ほんのひとときではあるが、成功の喜びに浸った一行は、撤退の時を迎えていた。
「皆、御苦労様でした。此れで我々の役目も無事に完了です。では命があるうちに逃げるとしましょうか!」
魯毅はそう笑顔で宣うと、皆の先頭に立って、粛々と引き上げたのだった。
「殿!お役目は果たしましたぞ…後は殿の戦果をお祈りしております!」
魯毅の眼差しは燗々と輝いていた。
その足取りは軽やかで自信に溢れていた。




