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落日の明暗【後編】~神の審判

一方…情けを掛けてやったのに、在ろう事か自分の好意を無駄にして、お尻ペンペンとアッカンベェ~を見事にやってのけると、とっとと姿を消してしまった劉邦に項羽は怒り心頭で、顔を赤鬼の様に真っ赤に(たぎ)らせると、怒りに任せて言い放った。


「え~い…(クソ)野郎(やろう)が!攻撃開始だ!前進せよ!!」


その言葉に想わず項荘も項声も(^^;「え~!!」と互いに顔を見合わせて驚きの声を上げた。


(^^;『くそ~兄貴の悪い気質が出てしまった…』


と項荘。


(^^;『まだ心の準備がぁ~』


と項声。


此の二人でさえこの状況であるから、副将で御史大夫の周殷(しゅういん)や右将軍の鍾離眛(しょうりばつ)、前将軍の季布(きふ)などは身動きの取り様も無い。


何しろ明確な指示が無いまま、兵を移動させようにも大所帯であるから、計画的に展開させないと、先ず前が開かないし、道が出来ないのだ。


項荘はやむを得ず、項声とあうんの呼吸で連携すると、自ら左右に展開を始めた。


項荘は北門方面へ仕方無く移動を開始し、項声も南門方面へ兵を(いざな)い移動し始める。


此れで少なくとも、季布と鍾離眛は身動きが取れる様になる。


周殷はまだ項羽の正規軍の後方に遭って待機する他無い。


項羽は相当に怒り心頭で、猛り狂った様に、(はな)から親衛隊を繰り出して、攻略に当たらせる。


本来なら終盤の決定機に投入する選りすぐりの精鋭部隊である。


勢いに任せて決めて仕舞おうという腹なのか、歯車がいきなり狂い始めていた。


親衛隊は本来的に後から投入される事に慣れているせいか、既に先遣部隊が着けた道筋を辿る事には長けていても、自ら梯子を取って道筋を造る事には慣れておらず、案の定自ら進んで事に当たろうなどという気概は持ち合わせていない。


ここは季布と鍾離眛の軍が率先して兵を伴い、梯子を掛けて道を造るほか無く、急ぎ機動力に優れた者に指示を下して、前進させた。


項羽はというと、怒りに任せて自ら梯子に手を掛けるような事はさすがにしない。


そこら辺りは心得ているのか、親衛隊長でもある季布に「任せたぞ!」と大声で怒鳴ると、自分はその場で腕組みをして城手に(にら)みを()かせている。


いい気なものである。


かたや自軍に指示を出しながら、親衛隊まで面倒を観なければならない季布は、溜め息をつきながらも、巧みに双方を自在に操る。


とはいうものの、親衛隊を指揮する副隊長と巧く連携を取る事で対処する事にしたようだった。


「梯子隊前進!梯子を掛ける者を盾で防御せよ!掛かったら親衛隊を先に行かせろ!パッパと動けよ!陛下を(わずら)わせるなよ!行け!行け!」


季布の命を受けた者たちは精一杯の気概を見せて、城手に掛かって行く。


一方の魏豹は忙しい…東西南北全てを観る事は出来ない。


(^-^;当然だわな…ひとりだからね(笑)


西南北の各門は捨てるほか無く、


『上がって来るなよ…(^^;』


と祈りながら東門に集中するしか無い。


元々、東側から出る気の無い劉邦が東門は大岩で内側から塞いであるため、門を破られるのには時間が掛かる筈だ。


そのうち東西南北それぞれが連携を始めたら、もう手の打ちようが無いが、東門から強引に来る間は対処のしようもあった。


魏豹は左右に動きながら、用意した弓矢を台ごと壁の(へり)の上に立て掛けて行き、それが終わると、鍋を壁面に並べる。


そして行ったり来たりしながら、その都度、銅鑼(ドラ)を木槌で打ってから通り過ぎて行く。


時折ゴォ~ンゴォ~ンと鳴る銅鑼の音は、今まさに梯子を上がって来る兵に圧力を与えるだろう。


そうしておいて、自分は梯子を登って来ようとする親衛隊の精鋭を、火矢で狙い撃つ。


さすがの精鋭部隊も梯子に手を掛けている間は、身動きが取れない。


火矢で狙い撃ちながら、台座に取り付けた矢も(つる)を切って撃ち放つ。


2ヵ所に掛けられた梯子を絶えず往き来しながら、魏豹は頑張っている。


時折、登られそうになるが、そこは用意してあった鍋の煮え滾る熱湯を頭から振り掛けて、とどめに鍋で頭をカチ割ると鍋ごと放り出し、後続を断つ。


まさに快刀乱麻の大活躍である。


火事場の馬鹿力とは良く言ったものだ。


ところが相手は数にものを言わせて来るので、さすがに手に余って来る。


台座の弓も変えの台とすげ替えるが、それも尽きようとしている。


『仕方無い…此れはやりたく無かったんだけどね…』


自分の命には変えられないので奥の手を出す。


油の壺を持って来て、それぞれの梯子に2~3(かめ)ずつ打ち降ろす。


瓶が当たり、落ちて行く者も続出する。


そこに火矢をお見舞いする。


『ままよ…ごめんね(^-^;!』


梯子は見事に火に包まれる。


そして上がって来ていた親衛隊の中には身体が火達磨になり、墜ちて行く者もいた。


『!!どうなってる??』


下から後方支援に徹していた季布の顔には焦りの色が浮かんでいる。


「お~い!新たな梯子を持って来い!」


季布はそう自軍の兵に指示を出す。


その刹那の事である。


不様(ぶざま)な…もう良い!門を破り、中に入る。破城槌(はじょうつい)を持って来い!」


「だそうだ…後は任せろ!」


鍾離眛は季布にそう告げるや、


「破城槌隊は俺と共に来い!門を破るぞ!」


と勇ましい。


李布は「弓隊、前に並べ!上からの妨害を防ぐのだ!」そう指示をして自軍の弓隊を配置した。


「申し訳御座いません…」


親衛副隊長は項羽にひたすら頭を下げている。


項羽は仏頂面(ぶっちょうづら)を隠さない。


「もういい!下がれ!後で名誉挽回の機会を与えてやるからじっと観ておれ!」


そう言うと、副隊長は頬を真っ赤にして引き下がった。


かなりの屈辱であるから当然で在ろう。


此れで魏豹の方は、少し体制を建て直す機会が得られた事になる。


李布が新たな梯子を掛けて来たら危ない所であった。


いくら破城槌がすごくても、大岩が何個も詰まっているのだから、それを中から取り除かない限り、門が開く心配は無い。


魏豹はあるだけの鍋と油壺をかき集めて来て、鍋は再び火に掛けて水を入れて煮立たせておく。


台座の矢じりも弦を修復して掛け直した。


やがてゆるゆると破城槌が押し出されて来て、門扉の破壊を試み始めた。


鍾離眛は(きも)の太い人である。


自ら先頭に立ち、「掛け声を出せ~!」と命ずると、「エイオ~!!」と率先して声を出しながら、切っ先の尖った丸太で門扉をドゴ~ンドゴ~ンと叩かせて行く。


ここは少しでも嫌がらせをする真似をしないと、人が居ないと悟られると不味いので、此れには槍を集めて来て、時折、手だけを出すと、小刻みに落下させる。


頭や上半身を出すと、前進して来た李布の弓隊の餌食になるので用心が必要だ。


ところが鍾離眛にとっては、些少の槍が降って来ようが、お構い無しである。


引き続き、ドゴ~ンドゴ~ンと門扉にダメージを与え続ける。


それを頼もしそうに項羽も眺めている。


正に高みの見物である。


『そうだ!此れもやっちゃおうかな?』


魏豹はそう思いつくと、油壺をまた2~3個投げて、その上から、松明の火を落とした。


さすがの鍾離眛も此れには悲鳴を上げた。


大事を取って兵を下がらせ、自分も素早く退避する。


魏豹は、まさにやりたい放題である。


しかしながら、相手は10万の軍勢なのだから、たったひとりの魏豹に取っては正に死に物狂いであり、大量殺戮と言われては甚だ不満が在ろう。


彼は自分の命を守りたいだけなのだ。


どちらかと言うと、無駄に兵を死なせる項羽に非が在ろうというものである。


ところが、この思いつきは裏目に出てしまう。


適当に槍の投下で済ませておくべきだった。


結果論だけどね…(^-^;


肝心の破城槌にまで火が回った項羽はもはや容赦無かった。


彼は一瞬顔を(おお)って()(ぎし)りすると、


「おい!投石機を持って来い!」


そう言うと、いよいよ周殷の投石部隊の出番である。


周殷は項羽軍の後ろで身動きも取れず、手持ち無沙汰で暇を囲って居たので、此の降って湧いた機会を喜んだ。


「お前らこの機会を逃すで無いぞ!打って打って打ち(まく)れ!」


こうして投石機はいよいよその出番を迎えた。


魏豹はそれを遠目に(のぞ)いていて、


(^-^;『ヤッバ~いよいよ御陀仏か?』


と心配そうな顔をして眺めているほか無い。


さすがに油壺も鍋も火矢も役立つ距離では無いのだ。


魏豹は城壁の上で、大の字になって寝転ぶと、観念した様にゲラゲラ笑い出した。


『此れは終わったな…無駄な抵抗もここまでか…』


そう想いながら、此れまでの日々を思い返していた。


『何でこんな風に真剣にやれなかったのだろう…』


彼は改めて後悔の念を投じた。


『儂もやれば此れだけ出来るじゃないか?なかなか捨てた者じゃ無いと想うがな…残念だ!』


そう呟きながら寂しそうに眼を潤ませた。


『やるだけはやったのだ。あの項羽にもひと泡吹かせてやれた…あの怒り狂った顔ったら無かったな♪』


魏豹はそう思い出しながら、袖口で涙を拭うと、スッキリした顔をして上半身をゆっくりと起こすと、


「さて…どうするかな?」


と呟いた。


短剣には毒を塗ってある。


此れでいつでも自裁は可能だ。


『そろそろいいか…』


そうも想うのだ。


たったひとりで一時とはいえ、10万の楚軍を返り討ちに出来た。


しかも相手は項羽の正規軍だ。


誇りに思っていい。


そして何よりも、自分が『やれば出来る』事を自覚出来た。


あれ程『使えない奴』と(さげす)まれ、やる気を無くして、当たり散らしていた自分がだ!


此れは彼の心の中で大きな成果だった。


そしてそう自覚するにつけて、自分の可能性が惜しくなって来ていた。


『此れからの自分の未来を見つめてみたい…』


彼はそう思い直すと、懐中深く仕舞い来んであった短剣を鷲掴みにして取り出すと、床に放り出した。


自裁は辞めたのである。


『だからと言って命が助かる保証も無いがな…』


彼は運を天に任せる事にした。


その時である。


御史大夫・周殷の放った投石機が一斉に大きな岩を放り込んで来た。


何と3個の大岩が魏豹の座り込む城壁の上まで到達し、真っ直ぐ三つ子になって飛んで来るではないか?


さすがに此れには魏豹も仰天した。


慌てて立ち上がると、間一髪1投目は避けた。


すると大岩は魏豹をすり抜ける様に城壁を破壊し、大きな穴を掘ると、真っ逆さまにそのまま落下して行き、どんどん各階の床に穴を開けながら墜ちて、やがてゴト~ンという音を立てた。


直ぐ様、2投目も続いて飛んで来たが、此れは城壁の上の狼煙台に直撃して、破壊すると、ひと転がりしながら、階下に降りる道筋を塞ぐ。


(^^;)『!!』魏豹は仰天して目をまん丸くしながら、『終わった…』と呟いた。


此れで城内にも戻れぬ。


そんな失念を(わら)うが如くに、続けて3投目が飛んで来るが、避けたつもりが運が悪かった…。


魏豹はその場で蹴躓(けつまず)き、すっ転ぶと、何とそこは1投目で開いた闇の淵であったのだ。


彼は(とど)まろうと必死にバランスを取ろうと試みたが、必死の攻防戦の後で、(あし)(わら)っていて踏ん張りが効かなかった。


彼はそのまま()んどり堕ちて、深い穴の闇に消えてしまった…。

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