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我こそは無敵の項羽、也!

夜が明けると、彭城は各軍全てがそれぞれの目的に向かって動き始めた。


項羽は朝一番に各軍の(おも)だった将を召集すると、訓示を発した。


「いよいよ連動作戦を決行する。皆、準備は出来ていると想うが、疎漏(そろう)無いな?」


項羽は第一声を発すると同時に、それぞれの顔を()めるように1人ずつ眺めて行く。


そもそも此の瞬間になって、躊躇(ちゅうちょ)しているようでは、項羽の揮下(きか)は勤まらない。


皆それぞれの中で気持ちの整理をつけており、後はやるだけと腹は決まっていた。


緊張しながら見つめる者、平然と泰然自若(たいぜんじじゃく)に構える者、不敵に笑う者、ケラケラと胸踊り湧き上がる者、それぞれに自分の最大限の力を発揮するために今日この時を迎えたのである。


項羽も『皆、良い顔をしている』と判断したらしく、嬉しそうにフッとほくそ笑んだ。


士気も高く、此れならば結果も着いて来るに違いない。


「お前らは、私の自慢の将たちである。必ずや目的を果してくれる事だろう。良いか!強い気持ちを持ちながら、自信の向くままに事に当たれ。何も恐がるな…我らの行く手を(はば)む者は容赦無く踏み潰して進め!さすれば(おの)ずと事は為れり、健闘を祈る!」


そう言い切ると不敵な笑みを浮かべた。


そして殊更(ことさら)に大きな声で「解散!」と散会を命じた。


直後に「項它、龍且、周蘭!お前達は残れ…」


と三名にのみ声を掛ける。


三名とも引き上げようとしていた矢先の事であったが、呼ばれるままに項羽の前に集結するや、直立不動で整列した。


「陛下、何で御在いましょうか?」


項它はそう切り出すと、項羽の眼を見つめた。


『ほぉ~良い眼をしているではないか?此れならば安心かも知れぬ…』


項羽はそう想いながら、言葉を掛けた。


「項它よ、心は決まったようだな…」


項羽はそう述べると、叔父としての顔を見せた。


「ええ…既に心は決まっております。必ずや叔父上の期待に沿うよう邁進(まいしん)するのみです!」


「良くぞ申した!期待しておるぞ…但し勇気と猪突猛進は違うゆえ、決して軽挙妄動に走るでないぞ!」


項它はその(いた)わりの言葉を受け取ると、謝意を表してニッコリと微笑んだ。


項羽も頷きながら、ウンウンと応えている。


そして龍且と周蘭の方へ眼を向けると、


「悪いが項它を頼む…こいつを男にしてやってくれ!」


そう言って会釈した。


此れは即ち、『勝って来い!』そう命じているのである。


「ハハァ…」


龍且も周蘭もそれは判っているので、大きな声で言葉を返した。


「では、宜しく頼む!散会せよ…」


項羽はひとまず満足したのか、解散を命じた。


態勢は整った。


楚軍はやる気を前面に出しながら、時を迎えたのである。


項羽に見送られて、外に出た三人は項荘と項声にバッタリと出会った。


偶然の様に見えるがそうでは無く、彼ら二人は項羽を待って待機しているだけである。


「おい!項它…どうやら覚悟は決まったようだな。」


項荘は『その意気や良し!』と頼もしげに見ている。


『どうやら土下座の仕方を教えるまでも無いか…』


項声は頼もしく見える甥を見つめながらそう感じていた。そのため、


「最後まで命は惜しめよ!」


それだけようやく伝えた。


龍且はかつての過ちを思い出してか、口を開かず聞き流してくれている。


周蘭も同様であるが、此方は項声と全く同じ事を季心に伝えてあるので、受け止め方には多少温度差があった。


「有難うございます。御言葉を励みにして、項它は行って参ります。叔父上様達も御活躍をお祈りしています…」


項它はそう応えると、龍且と周蘭を伴い、兵の戦意高揚に向かった。


項荘と項声は三人の背中が見えなくなるまで、見送っていた。


「我々も気合いを要れねばな?」


項荘は項声に語り掛けた。


「そうだな…」


項声もそれに応えた。


そしてちょうどその直後に…まるでそんな『別れ』の言葉が交わされた事を承知していた様に、項羽が兵舎から出て来た。


もし仮に意識的に時間をみていたとしたならば、なかなか気の効いた事が出来る人で在ろうが、それは誰にも判らなかった。


項羽は二人と目が合った瞬間に、


「頼んだぞ♪」


と一言だけ伝えた。


二人は「お~よ♪」と返事を返した。


まるでそこには、かつてガキ大将だった頃の悪ガキ三人組が居る様で在った。


三人はその足で既に出発を前に整列を済ませている軍団の前に姿を現した。


先ずは項羽軍が先発する。


項它軍は田横軍と合流せねばならないため、田横の進発の連絡を待ってから動き出す予定である。


項羽は項荘、項声と共に10万の軍を前にすると、檄を飛ばした。


「恐れを知らぬ者共よ!我が頼れる男達よ!いよいよ我らの力を見せる時がやって来た…皆準備は出来ておるな?」


項羽の咆哮(ほうこう)は見渡す限りの者共全ての身体をビリビリと()()く様に震えさせる。


そしてその効果は絶大であり、ひとりひとりの心の炎を(たぎ)らせ、燃やす力を秘めていた。


「うおぉおぉ~!!」


10万の戦士の一斉の返事が返ってくる。


自信に満ち溢れた頼もしい声である。


「良し!さすがは頼もしき我が戦士たちだ! 我らは此れより滎陽城攻略に向かう…今度こそ劉邦の息の根を停めてくれるわ!皆頼んだぞ、出発!!」


項羽の号令の元、10万の軍団は動き始めた。


但し、彼らの行く手に何が待ち受けているのかは、この時点ではまだ知る(よし)も無かった。

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