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楚王韓信その②~着手

いざ楚王として、統治を担う立場になってみると、はたと気がついた。


被災民に食糧を供出するのは良いとしても、実際何から手掛ければ良いのか…まだ考えがまとまっておらず、混乱している自分が居た。


『待て待て…待ってくれ…』


慌てても仕方ないのは、元々承知の事である。


『まずは、各地の視察だ…』


軍事でも偵察がまず肝要である。


『現状が解らねば何も出来まい、これは軍事と同様のはず…』


咄嗟の閃きは、まだ軍事脳のままのようである。


『次に有能な人材の発掘だろう…執政官が居らねば話にならんからな…』


自分は元より回りに居る者たちも端緒がわからぬのだから仕方がない。


『相談しようにも部下は皆…武臣…故に止む得ぬが』


韓信の幕僚連中は元々戦争に特化したスペシャリストばかりである。


戦時は心憎い程の助言をくれたものだが、復興という名の戦場では、からきしものの役に立たず、頼りにならないのだ。


助言出来る者が居ない以上…自分で考えるほかあるまい。


『思わぬところでまた孤立してしまったものだな…』


戦時中に斉王を名乗った韓信は、劉邦陣営の中では独り浮いた存在である。


ほかの者にしてみれば、羨む対象なのだから仕方ないが、韓信本人は傲慢さ故に気がついていない。


大手柄を挙げられぬための悪意…としてのみ受け止めているため、自分の処世術の不味さだとは全くもって気がついていないのだ。


それが、また周りの関係者からすれば、余計に腹立たしいものなのだ。


故に孤立しており、言葉をかけてくれるのは、蕭何くらいのものであった。


劉邦陣営で孤立し、復興策で身内からも孤立する羽目になった韓信特有のボヤキであった。


『そこで当面の割り振りだが…』


項羽も(ただ)の猪武者では無かったらしく、各都市部には最低限の兵力は残されて居た。


裏を()かれて攻撃を受けた場合の自衛のつもりなのだろう…。


韓信は到着後すぐに偵察に出そうと思って居た部隊を、遅まきながら50の城街(しろまち)に展開させて、それぞれ小飼の部隊長クラスを使い、各地を順繰りに調査させてみると、殆ど全ての兵が元々その都市に配置されていた土地就きの者共で、(はな)から項羽兵ではないようだ。


『流石に磨きあげた自前の項羽兵は使わぬか…』


仮に当初は置いて居たかも知れぬが、恐らくは協定を破られ…背後から奇襲を受けた後辺りか、或いは、三方挟撃を受ける前辺りかに、項羽自らが呼び戻したのかもしれない。


それに端から、緊急時は城を捨てても馳せ参じるように命ぜられていたのかもしれないではないか。


『そう考えれば納得はいくな…疑り深い項羽が、息の掛かった兵を置かぬ訳があろうか…』


それでも召集を懸けざる得ぬ程、追い詰められて居たと言うことなのだろう。


『或いは今更(いまさら)ながらに、兵力の分散の愚に気づいて、兵力の集中を図ったのかも知れぬがな…』


どちらにしても我々にとっては、項羽の息が掛かっていない地元の自衛兵団の方が、使い勝手は良い。


まず命じ易く、承服しやすい。


地元の自衛と復旧であるなら、喜んでやるだろう。


人手不足の折だから、こちらから人手を回さなくとも、独自に募集させても良い。


『成る程…人は自分の利益になる事で在れば、進んで働くか…』


かつて韓信が、軍師の張良にきっちり嵌め込まれてしまった手である訳で、さすがに苦笑せざる得ない。


『蕭何はいい奴だが、張良は好かぬ…』


張良には自分と同じ臭いがするから好かぬ…と韓信は思っているのだが、それは大きな間違いであり、実際には無欲の張良は既に職を辞して、隠棲してしまっている。


韓信はそういうところには意外と無頓着であり、そこ等が処世術に欠けるという点なのだろう。


『勝てば後は知らん顔か…』


韓信は未だ気づいていないが、張良は必ずこの先に粛清の嵐が起きると考えており、劉邦に天下を取らせると、恩賞も固辞して早々に去ってしまっているのだが、まさにこれが真の処世術と言うものなのだ。


常に利益優先で考える癖が悪い程に定着してしまった韓信には、おそらく張良の生き方は生涯理解出来ぬ事であろう。


『各都市には当面自衛させ、方針が決まるまでの間は順次査察を行うとして、供出分の食糧を与えて置かねばな…』


各都市の城主は、項羽に合流して死んだ者も多く、城方の血縁者が守る者、街の有力者がやむ無く自治する箇所も多いと聞く。


『小飼の中から城主に足る者を出さねばならぬだろうから、その人選も考えねばな…』


取り敢えず…まずは順次査察をさせ、各都市の代表者には淮蔭に集まるように命を出し、統治機能の回復に努める事にした。

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