表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/88

楚王韓信その①~復興

韓信は困っていた。


栄誉ある楚王の称号を叙任され、故郷・淮蔭(わいいん)に錦は飾ったものの、いざ現地に赴任するや、勝手の違いに驚いた。


自分は確かに楚王として指示を出すべき身ではあるが、これ(ほど)何もかも(おう)(みずか)らが采配(さはい)せねば成らぬとは、予想だにしていなかったからだ。


本来で在れば、赴任先には現地に元々在留している官僚達が居て、新たに連れて来た人材との引き継ぎをしたり、協力をしてもらったりするものなのだが、ここにはそれが無いのだ。


それというのも、成年男子はほぼ皆無と言えるくらいに、項羽軍に徴発されてしまった後だし、それが嫌で夜逃げした者も居て、在留するのはお年寄りや怪我人と、女子供が大半を占めている状況という有り様だからだ。


特に元々在留していた官僚連中何て真っ先に逃げ出したらしく、役所という役所はどこも…もぬけの殻なのであった。


これが法治の厳しい秦の時代なら『逃げれば死罪』というところだろうが、あいにくその秦は既に滅亡している。


戦時が長く続いたため、被災民も多く、死者もなお放置されたまま…という事も有り、今は人手が多ければ多い程、助かるというものだ。


当座の問題は、戦で大きな打撃を被った楚の王都を復興せねばならない。


『まずは被災した民を保護して、住まいと食糧を与えてやらねばな…あと使えそうな者たちは、復興に役立てねばならぬが…さてどうしたものか…』


その場凌ぎの…応急措置程度のレベルの話しなら、軍事行動を得意とする自分に取っては得意分野ではある。


自分と長年行動を共にしてきた小飼の臣下に、これまで散々占領下で行わせて来た事をそのままやらせれば良いのだ。


だが、それはあくまで一時凌ぎであって、これから恒久平和の世になるのであれば、長い目で見た復興のプランを考える必要があった。


『そういう分野は正直余り得意ではない(-_-;)…』


そうは言っても…自分は既に戦を指揮する大将軍では無く、この地の王で有り、支配地の民を靖んじていく責任があるのだから、考え行動せねばならない。


『まずは、食糧配給をしつつ…視察をせねば成らぬな…あと動けそうな者は復興の戦力に当てねばなるまいが…配下の役割りも考えねば…』


自分の考えを行動に移せる指揮官が居なければ、どうにもならないのだから仕方ないが、都から連れて来た内政官も、正直なところとても頭人数が足りているとはいえない状況である。


『無い物ねだりは出来ないがな…』


内政官や小飼の配下の中で、復興のプランが有る者が要るかは既に確かめてみた。


『人材が要る…内政官も増やさねば成らないが、もっと切実な問題は、復興プランを考えて行動に移せる有能な執政官だな…』


しかも早く着手するには、ある程度早い時期に然るべき人物を見つけて、指揮を委ねなければならない。


『当面…応急措置を施しながら、人材の発掘だな…』


ある程度の復興資金はいただいて有るし、第一功として頂戴した報奨金もある。


都でその一部を当座必要であろう糧に替えて要るので、それをまず救済に充てねばなるまい。


韓信は楚の王としての当地能力をまず示さねばならないのだ。


それでこそ民も安心して心服するだろうし、未だ戦争の爪痕が残るこの地の復興も果たせるというものだろう。


戦に継ぐ戦に明け暮れて、連戦連勝向かうところ敵無しの韓信と言われた自分だが、これからは軍事能力以外の分野で果たして光輝けるのか…試される正念場と言えた。


『皇帝陛下に弱みや隙は見せられん…』


劉邦の幕僚の中には自分を心良く思って居ない連中も多い。


韓信の隙を伺って、弱みや失策を見つけようものなら…その瞬間に狼のように襲いかかって来よう。


それと同時に、これまで天才的軍略を欲しいままに発揮してきたこの自分が、当地能力では凡庸であるとは認めたくない…という自身の高慢過ぎるプライドが邪魔をしているのも確かだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ