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お菓子な粉

ー楚国・彭城ー


周蘭は項它と別れると改めて自室に引き返した。


何か対応策を考えねばと、想ってはいるが、前述の通り、楚国側にはろくすっぽまともな情報は入って来ないため、何ひとつ想いつかない。


それもひとえに韓信側の情報管理が行き届いている事を物語っていた。


情報を制する者が優位に立つのだとすれば、この時点で楚側は敗色濃厚と言える。


但し、全体の総数とすれば、韓信側は6万5000、楚・斉連合は、25万で在るし、楚は単独で20万もの軍勢が居るのだから、例え途中、斉が寝返ったとしても、11万5000対20万でまだ倍近くも兵力差を維持出来る計算になるのだから、この時点ではまだどちらかと言えば楚側圧倒的有利と断言しても過言ではなかった。


此れが攻城戦ともなれば、また話は違ってくるが、平地戦の場合、結局は数の論理になるのは自明の理であるのだ。


良く『1人10殺』すればとか名言は数多(あまた)あれども、最終的には気合いだけではどうにもならない。


平地戦で4倍近くの兵力差が在れば、普通は兵力の多い側が勝つ。


余程のアクシデントが無い限りはね!


だから武器の精度で差をつけたり、罠を造ったり、防壁を(こしら)えたり、時には簡易的な城を造る者まで現れる。


300年程、後の世に現れる曹操という三國志の有名な英雄は、長安を守るために西涼の馬超と平地で対陣した時に、土で造った城壁に水をかける事で、一夜の内に氷の城を造った…と言われている。


冬の時期には軽く氷点下になる地域ならではの方法だろうが、英雄に箔を付けるための逸話という手法は、中華の歴史書にはよくみられるケースなので、本当かどうかはその場に居た者にしか判らない…。


ただ此のように兵力の不利を埋める為には、何かしらの対応策が不可欠だという喩えである。


それだけ平地戦では兵力で圧倒可能という事になる。


因みに此れは余談だが、曹操の先祖が()曹参(そうしん)だと言われている。


曹操の祖父は宦官なので、父親は養子縁組で夏侯家から貰われて来た子であると言われており、血縁上は、むしろ夏侯嬰(かこうえい)の子孫と言えるかも知れないが、あくまでも血縁上の問題だけなので、正式に縁組が行われている以上は曹参の子孫で間違いはない。


まぁこの話の展開には全く関係ないので、話を元に戻す事にする(^-^;単に筆者が曹操が好きなだけである(´▽`)♪


周蘭は結局の所、良い服案は想いつかなかった。


但し、田横という男とは一度、知恵比べをしているので、侮れない相手だと自覚している。


田一族が裏切った場合、兵力差が一気に2倍近く縮まるので、此れは看過出来ない。


ひとまずここは押さえて置くべきだろう。


『どうするか…』


自分は常に龍且の軽挙妄動を抑制させるべく目を光らせておかねばならない。


となると選択肢は必然的に限られてくる。


『季心にやらせるほか或るまい…』


此れが周蘭の結論である。


周蘭も今までの経験値から、平地戦では余程の事が無い限り、多勢に無勢のこの状況では、ほぼ兵力差のみで圧し切れると思っているが、前回の油断は繰り返せない事も判っている。


そのためには、田一族を季心に見張らせておき、自分は龍且をとにかく抑える。


『此れしか無いか…』


そう想い至ったのであった。


『やれる事だけは確実に果たそう…』


考えがまとまると周蘭の行動は早い。


彼は直ぐに季心を呼びにやった。


そして自分はひと息つく。


彼にしては、朝から目まぐるしく頭をフル回転させていたので、少々疲労を感じていた。


そこで例の襄苴から貰った薬袋の中から、何か良さそうな物はないかと物色していると、『栄養剤』と書かれた袋を見つけた。


そこで直ぐに口に放り込んで水で飲み干した。


やがて呼びにやった季心が入ってくると、席を勧める。


「何か御用でしょうか?」


季心は着座するなり、そう尋ねた。


「ああ…よく来てくれた。今回は合力(ごうりき)してくれて心強い。宜しく頼む!」


周蘭は主力を担う将軍にも拘わらず腰が低い。


季心に対しても頭を下げて挨拶した。


「こちらこそ宜しくお願いします…」


季心も挨拶を返す。


「さて挨拶も済んだ事だし、核心に入ろう…」


周蘭はそう言うと、季心に対して説明を始めた。


「我らはこの度、田一族の援軍として参戦するが、そのまま何事も無ければ数で圧し切れる筈だ。だがな…私は直接会ったので判るのだが、この田横という宰相は一筋縄ではいかぬ御仁なのだ。よもやとは思うが、戦場で寝返られた場合、兵力差が一気に縮まってしまう。それは避けたいのだ。そこでそなたに(くだん)の軍の見張りをお願いしたい…どうかな?」


季心は真剣に一言一句、噛み締めながら聞いた上で、


「承知しました。無論見張らせますが、異変が起きた場合はどうするのです?」


と尋ねた。


周蘭はもっともだと言わんばかりに頷くと、


「この戦の大将は上柱国(項它)様だ。そちらに知らせてくれると有難い。何しろ我らは乱戦に巻き込まれているかも知れない。指示系統は上柱国様に委ねる必要があるからな!」


そう応えた。


「判りました…そう致します。」


季心も頷く。


「季心殿、あとひとつ宜しいか?」


周蘭は何かを懸念している様に季心をまじまじと見つめている。


その顔は真剣そのものだった。


「何なりとお申し付け下さい!」


季心がそう応えると、周蘭は言葉を選ぶ様にこう告げた。


「御主は独立遊軍だったな…言い替えれば、此れ程、自由に行動出来る部隊は無かろう。ゆえに監視の役目をお願いしたのだが…」


周蘭はここで一旦言葉を切った。


そして少々、周淳(しゅうじゅん)した後に、決心がついたのか、こう続けた。


「御主も2年前の敗北については存じておろう。あの時も我々は圧倒的な兵力差から、勝ったも同然と踏んでいた。結果は御主も承知の通りの大敗だ。だが、2人の若者の身を切る活躍のお陰で、全滅を逃れたばかりか、犠牲者を最低限に抑える事が出来た…」


季心もその話は知っていた。


勿論、兄の季布も自分も直接関わってはいないが、范増様が苦々しく語っていたのを覚えている。


周蘭は話を続けた。


「無論、端から敗けを前提に戦う者など居ない。だが、此れだけは覚えておいて欲しい。万が一の時には、独立遊軍の身軽さを活かして、逃げ延びてくれ。老骨ばかりが生き永らえて、若者を殺すのは忍びない。いざという時には、逃げよ!そして可能で在れば、上柱国様を救ってやって欲しい。そんな事に成らぬ様に祈るばかりだがな…(。-ω-)フフフ、以上だ!」


周蘭は言うべき事は言った…と満足する様に、言い終えると、机の端に置いていた薬袋の中から、『痛み止め』と書かれた薬包を三つ取り出すと、季心に手渡した。


季心は想わず…兄・季布の言葉を思い出す。

『絶対に飲むな…』と。


「此れは何でしょうか?」と想わず聞きそうになったが、その前に周蘭が説明してくれた。


「此れは"痛み止め"という薬だ。頭痛や熱が出た時にも効き目があるが、戦傷を負った場合にも効く薬だ。万が一の時には飲むと良い。貴重な薬だから粗末に扱うなよ…傷その物が治る訳では無いし、痛みを完全に取り去ってくれる訳では無いが、かなり痛みが和らぐだろう。けして変な薬では無いから心配致すな…もっともこの薬を使わんで済むに越した事は無いだろうがな…では健闘を祈る!」


周蘭はそう言うと手首を振りながら、『用は済んだ』と言わんばかりに背を向けてしまった。


季心は、「有難う御座います!」そう言うと、深々と一礼して退出するのだった。


自分が『生きて帰る』事を念頭に戦うつもりであった事が恥ずかしく想える程、周蘭将軍は考えていてくれたのだ。


そしてその立ち位置まで示してくれていた。


無論、此れは戦争なのだから、自分の責任は果たす必要があるが、御墨付きが与えられたお陰で、退却は自身の判断で行える事に成ったのだから、此れで良しと言うべきだろう。


季心は"項它様をお救いしたい"その周蘭の言葉が2年前の失敗からきている彼なりの贖罪(しょくざい)なのだと感じていた。


『こりゃあ大将は連れて逃げなきゃいかんかもな…(;^_^A』


季心はそう想いながら、ふと視線が手に持つ薬にいった。


『わりとまともな薬かも知れんな…(;^_^A』


兄者には悪いが緊急時には使おう…季心はそう感じていた。

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