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時は満ちた

ー楚国・彭城ー


会議が閉幕し、皆各々に退席して行く。


周蘭は歩きながら龍且に声を掛けた。


「お~い龍且~♪」


龍且は振り向くや横に並んだ周蘭に、


「何だ…朝から元気だな!どっから声を出してる?」


とボヤいた。


彼は昨晩…痛飲したのでまだ頭が回っていない。


「いやね♪さて…どうするよ…て事かな?」


周蘭は龍且が格別…計画が在るのかと興味を持って聞いたのだが、龍且の反応は極めて大雑把だった。


「在る訳無いだろう…俺は腕っぷしだけが頼りの男なんだぞ♪相手が仕掛けて来たら、潰す!それだけさ♪どうだ…理解出来たかね?つ~かそんな事は毎度の事で、お前さんが一番知ってる事だろうが…違うか?」


龍且は、"つまらん事を聞くな"…と言った呈で豪快なあくびを一発咬ました。


『(^-^;やっぱりか…こりゃあいつも通りのパワ~プレイに成りそうな予感がする…』


と冷や汗が垂れて来る。


すると龍且は心配そうな周蘭を横目で見ながら、


「考えても仕方ないぞ…相手在っての事だからな…計画通りに相手が動いてくれるとは限らん!仮に動いてくれるなら楽で良いが、戦況は堪えず動くものだ…現場で臭いを嗅ぎとって、いち早く動いたもんの勝ちさ♪それなら俺の動物的な勘は誰よりも優るからな!ガハハハハ(^○^)♪」


とかなりご満悦だ。


龍且はかなり楽観的にそう言うが、それで2年前も漢嬰に苦杯を舐めている。


項襄の自己犠牲による懸命なしんがりによって、何とか全滅を逃れたが、あの時も10万人が犠牲になるところだったのだ。


項襄のお陰で2万程の犠牲で済んだが、戦略の無い突撃は非常に困る…(>_<)周蘭は少々不安になった。


『(;^_^A実際、あの時以来の大規模戦だからな…』


周蘭の勘は当たる…誰かがそう言ってたでしょう?


そうなんです…(>_<)周蘭さんは勘が鋭いんですよね~!


あ!そうだ♪季布さんが確かそう言ってましたな…。


(;^_^A周蘭はプランを持たずに先走りそうな龍且を不安な目で見ていた。


『何とかしなきゃいかん…だがどうする?』


周蘭は自問自答している。


『そうだ!』


周蘭は想いついた様に龍且に尋ねた。


「で!決戦場はどの辺りを想定してるんです?」


すると龍且はまたまたあくびを咬ましながら、


「それなら判るぞ♪おそらくは濰水(いすい)を挟んで対峙する事になるだろうな…腐っても鯛…ならぬ河だからな、あそこは…冬場は特に浅瀬が多いが、河幅は広いのでな…あらかじめ渡るにはお互い慎重になるだろうから、けっきょくの所、河を挟んで対峙する形になるだろうよ…」


そう言うと、また出そうなあくびを噛み殺した。


「何が心配なんだ!うん?」


龍且は顎をしゃくりながら、周蘭を見た。


「浅瀬だと言ったろう!…いざと為ったらチャチャっと突撃ぶち咬まして大将の首根っこ掴んで生け捕りにしてやるから心配要らん♪」


( ゜д゜)……。


周蘭は絶句してしまった。


『(;^_^Aそらぁ心配なんはあんたの態度ですぅ…』


そう言いたいが、グッと我慢して堪える。


代わりにこう言った。


「相手はあの韓信ですぞ…北方4国を短期で平定し、斉国もいまやほぼ奴の支配下にあります…戦神と云われる奴が相手ですから、そらぁ心配しますよ!でしょ?」


周蘭は龍且を少しは慎重にさせようと躍起になって捲し立てた。


ところが此れは逆効果でしかなかった…。


龍且は突然、ガハハハハと高笑いすると、


股夫(ひっぷ)に何が出来る!うん?」


と然も可笑しいと言わんばかりだ。


「奴は股くぐりの韓信だぞ(^○^)♪笑えるだろ!まさかこの俺があんな奴の相手をする羽目になるとはな…嗤えてならんわっ♪あんな奴は瞬殺してやるから心配するな…以上だ!」


話は此れで終わりとばかりに龍且は馬鹿らしくなったのか、周蘭を置いたまま、兵の教練に行ってしまった。


(;^_^A『さて…困った事になったな…却って龍且の奴の気持ちに火をつけてしまった…厄介な事になった…』


周蘭はどこで間違えたのだろうと( ゜д゜)茫然自失で頭が真っ白になるのだった。


「いかん!いかん!私が自分を見失ってどうする…しっかりしなくては!あの暴走機関車のブレーキとなるのが私のお役目だからな…」


周蘭はそう想い直すと、気持ちを強く持つ事にした。


「そう言えば、項它殿が大将になるのだったな…」


彼はその足で項它に面会を求めたが、彼の副官の話では、まだ戻らぬと言う。


『出直すか…』


そう想って一旦引き上げる事にした。


周蘭は腕を胸元で組みながら、来た道を戻っていた。


『何か良い手立てはないものか…』


するとちょうど反対側から(くだん)の項它がやって来る。


二人はほぼ同時に相手の存在に気がついて、どちらともなく声を掛け合う形となった。


周蘭がそうであった様に項它も彼に面会しようと考えていたらしかった。


自然と二人は連れ立って歩き始めた。


「叔父上(項羽)に呼ばれてな…かなり葉っぱを掛けられた(^-^;参ったよ…」


項它は心無しか(やつ)れている。


『上の方には上の方なりの御苦労がおありなのだな…』


周蘭は少し気の毒に想った。


それに比べればまだ自分は気が楽なのかも知れない…そう想ったのだった。


「それは大変でしたな…お疲れ様でした。ところで上柱国様(項它の事)、何か懸念でもお有りですかな?」


周蘭はひとまず相手の話を聞く事にした。


項它はこの(たび)は大将であるし、年齢はこちらが上だから、聞いてやる姿勢を見せねばなるまい。


「懸念と言えば…」


そこまで言うと、項它は言葉を切った。


先程、項襄の話が話題になった事を思い出していた…だがけっきょくのところ、それは自分と項襄の間の個人的な問題で、周蘭には関係の無い事だった。


『今さら、項襄の話を持ち出して何とする…』


項它は『つまらぬ事を告白する所だったな…』と気持ちを切り換える事にした。


「懸念と言えば、(周蘭)将軍はこの(たび)の戦いに何か服案はお持ちだろうか?」


項它にいみじくもそう問われて、周蘭は言葉に詰まった。


何しろ龍且があの通りなので、別の手立てを項它と相談しようと思っていたところであり、『服案』など有る筈も無い。


やむを得ず龍且の意向を伝えて、困っている旨を正直に告げた。


項它は『やはり…』と暗に予感していた事を隠さず、


「それでは2年前と同じ結果になるのでは?」


と耳に痛い事を言う。


但し、それは仕方ない事なのだ。


項它・項襄の両名の奮闘が無ければ、10万人という未曾有(みぞう)の戦死者が出ていたのだから…。


確かに今回はそれに輪を掛けた大規模戦になるのだから、項它が大将として懸念を表明しても不思議は無い。


しかしながら、それに替わる代案が無いのだから、けっきょく『相手に合わせて戦う』という龍且案しか残らない。


『なぜこんな事になったのか?』


周蘭も龍且同様に、項羽の脅威的な武力を背景とした圧力攻勢に慣れてしまっているから…そう考えれば納得は出来るのだが、それはあくまでも人外の力を発揮する事が可能な『項羽の居る戦場』に限られるのであって、龍且がどんなに腕っぷしが強く、突撃力があったとしても、まともに組み合って貰えなければ、前回の二の舞という事になろう。


二人は互いの顔を見つめながら、『不味い…』と感じていた。


そもそも彼らが計画らしい計画を立てられない理由のひとつには、情報収集能力で韓信側に既に負けているという事が挙げられよう。


范増が健在の時までは、情報戦では五分に立ち廻れていたものが、現状ではほとんど活用出来ているとは言えないし、使われないゆえに間者の数その者も減っている。


さらに言えば、韓信陣営でも、劉邦陣営でも、情報収集に対する意識が非常に高い。


周勃が叡鞅に指示して得た情報を元に今回の作戦が立てられているのを見てもそれは明らかだった。


そして蒯通(かいとう)李左車(りさしゃ)宋中(そんちゅん)史進(ししん)叡鞅(えいおう)などによる情報封鎖と情報操作の管理が徹底されているため、彼らは意図的に流された情報しか得られない。


此れでは計画が立てられなくても何の不思議も無いのであった。


計画とはそもそも情報無しには構築出来ないのだから。


「少し考えさせて下さい…」


周蘭はそれしか言いようがなかった。


項它も想わず吐息しながら、


「そうだな…私も少し考えてみようと思います。」


そう言うほか無かった。


いずれにしても、もう余り時間は無かった。


どちらが勝ち、どちらが負けるにしろ、片方の破滅へのカウントダウンは既に始まっていると言っても過言では無かったのである。

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