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連動作戦

ー西楚国彭城・項羽陣営ー


その日の朝、龍且は周蘭を伴って項羽に面会した。


いよいよ決戦の日が近づいて、準備も着々と進んでいる。


今朝の面会では、項羽の従兄の子の項它(こうた)も呼ばれていたし、大司馬の周殷(しゅういん)、同じく大司馬の曹咎(そうきゅう)、元三秦の司馬欣(しばきん)、将軍の鍾離眛(しょうりばつ)季布(きふ)、その弟の季心(きしん)等も足並みを揃えて居た。


項羽は今朝はかなり機嫌が良いらしく、皆を一様に眺めながら、代わる代わる言葉を添えて各々に労いの言葉を述べた。


その上で大々的な作戦を決行する旨を指示した。


「皆ご苦労である。今日呼んだのは他でもない。そろそろ劉邦の奴めを追い込んでやろうと思ってな♪奴め予想外に滎陽(けいよう)で持ちこたえておる様だが、どうやら兵糧不足が露呈して来た様だ。この機に潰してしまおうと思っておる。攻略には、(わし)自ら此れに当たる。兵力は10万、副将は周殷、そして鍾離眛、季布…お前たちは儂と共に来い。良いな!それから…斉国への援軍については、大将には従兄(あにじゃ)の忘れ形見である項它を付けるゆえ龍且・周蘭両将軍は主軸として事に当たって貰う!兵力は20万与える。また季心を遊軍として付けてやるから、夢々期待を裏切らぬ様にな!それから、万が一が在ると困るゆえ、大司馬の曹咎、司馬欣の二人には留守居を申しつける。10万の兵力でここを堅守せよ。以上だ!」


項羽の通達を聞いた幕僚たちは口々に「おおっ!」とどよめきの声をあげる。


何と大胆にも二正面作戦を決行するというのだ。


皆この壮大な計画に酔ってしまい誰ひとりとして反対する者はいない。


もしかしたら范増(はんぞう)が健在で在れば反対したかも知れない…。


が!その范増が健在な時も傲慢であった項羽は、范増亡き後はより一層傲慢さと狂暴さが増していたのだから、例え反対をしたくても『出来ない』と言った方が正解だったのかも知れなかった。


その全体的酩酊状態の中で、ただひとり冷静に状況を見極めている者が居た。


季布である。


季布は冷静沈着を棟としており、范増の信頼も厚く、頭が良く回る。


『あれ?元々陛下は斉国を取って二方面から挟撃するつもりだった筈なのに…まとめて平らげるってどういう事なんだろう…』


確かに劉邦が兵糧不足に陥っているならチャンスではある。絶好の機会を逃す手は無い。


しかしながら、相手の欺計(ぎけい)だった場合どうするつもりなのだろう?


劉邦にはあの陳平というスゴ腕の軍師がついている。


そして神仙のごとき兵法家の張良もいる。


『大丈夫なのだろうか?』


そう季布は心配していた。


だが、この中でそれを口にする事は(はばか)られた。


もしそんな事をしようものなら、自分が矢面(やおもて)に立たされてしまうし、折角の士気高揚に水を差す。


季布は黙ったまま(;´∀`)作り笑顔でその場を乗り切る事にした。


「では質問等も無い様だから解散!健闘を祈る!」


項羽はそう言うと会議を終えた。


皆各々に退席して行く。


季布は大本営を辞すと、直ぐに弟である季心の腕を掴んで人気(ひとけ)の無い所まで連れ出した。


季心は訳が判らずに「兄ちゃん腕が痛いよ!」と顔を苦痛で(ゆが)めながら着いて行く(。>д<)!


人気の無い所までやって来ると、季布は季心に自分の感じた違和感を打ち明けた。


そして「お前はどう思うか?」と問うた。


すると季心は急に憂慮した顔をして同意した。


この季心という弟も兄に負けない頭脳と冷静さを備えて居たので、すぐに事の危うさに気づいた様だ。


「兄ちゃんどうすればいい?」


そう素直に聞いて来た。


季布もまだ具体的に問われても、嫌な予感があるだけで、杞憂(きゆう)かも知れない…という想いもあった。


そこで念のため、兄弟間で足並みを揃えておくべきだと考えただけなので、然したる助言があった訳では無かったが、弟に万が一が在ってもいけない。


季布は今の今までずっと弟と同じ作戦に従事して来た。


けれども今回始めて別の作戦に同時に取り掛かる事になったので、弟に何か在っても救いに行く事は難しいだろう…。


そこで敢えて弟が自分で身を守れる様に智恵を付けておく事にした。


「よいか弟よ!龍且将軍は心根は良いお方だが、腕に自信がある分、(おご)(たかぶ)る嫌いがある。今回は兵力が20万在るからよもや心配はあるまいが、けして安心してはいけない。戦とは将の器でいかようにも針が振れる。良い方に振れれば大勝と為るが、(まか)り間違えば大敗を引き当てる事も在るのだ。だから心してまずは周りの状況を常に冷静に見極めよ…此れがひとつ!」


季布の言葉に季心は真剣に耳を傾けている。


季心にとって兄は目標であり、自分もそう在りたいと常に尊敬の念を抱いていた。


季心は相槌を打ちながら、頷いた。


「判ったよ…兄ちゃん!後はどうすればよいの?」


季心は尋ねた。


「次に周蘭殿だが、あの人は腕っぷしは龍且殿ほどでは無いが、慎重な人だ。頭も切れる。恐らく龍且殿の猪突猛進が在れば押し留める役割を担う人だ。あの人が何か助言をする様なら、お前も気をつけなさい。あの人の勘は当たるからな…。罷り間違っても、二人を助けようとするなよ…酷い言い方だが、あの二人は運命共同体だと考えて良い。盟友だからな…反対しても通らねば、周蘭殿は龍且殿と運命を共にするという事なのだ。だからけして付き合うな…そういう事だよ…此れがふたつ!」


季心はゴクリと生唾を飲み込むとその姿勢は依り一層真剣になった。


「最後に三つ目だが、最近周蘭殿の周りでおかしな風習が噂されている。どうも薬を常用しているらしい。その効果で元気(げんき)溌剌(はつらつ)だというのだ。此れは良い傾向に(はた)からは見えるかも知れぬが、私は憂慮(ゆうりょ)している。かなりヤバいかも知れぬ。ゆえにお前は勧められても絶対それを飲むな…よいな?そして独立遊軍であるお前はその事を最大限に活かして連携しつつ、独立を保つ事。いざとなったら自分の身を守る事を最優先せよ!兄はお前を助けには行けないのだから、この三策をお前に与えておく。努々忘れるで無いぞ!手柄よりは生命…それが今回の戦の(きも)ぞ!」


季布はそう告げると、話を終えた。


余り存在を消し過ぎると疑いの対象に為りかねないから、時間は掛けるべきでは無かった。


特に項羽に付き従う季布は、不味い立場になる。


だが、危険を冒しても、弟を守りたい気持ちがそうさせたのだった。


「兄ちゃん判ったよ!胆に命じる…」


季心はそう言うと感極まって目が潤んでいるが、やおら手でゴシゴシと涙を拭うと、二人は別れ別れに離れて行った。


季布はこの二方面作戦が成功する様に祈るはがりだった。

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