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回想

ー斉国東部・曹参陣営ー


曹参は史進が戻って来ると、「思い出したか?」と聴いた。


史進は曹参の前まで進み出ると、口に手を当て、やおら小声でこう言った。


「殿!あの時ですよ…。趙から韓信の許に合流した際の事を憶えておられるでしょう?」


曹参はそれを聴くと『ああ…。』と記憶が鮮明に甦って来た。


『あいつか…。』


それは周勃が漢嬰の幕舎を訪ねた時の事だった。


その際、曹参は趙より韓信の許に再度合流した直後で、腹心の史進と共にその挨拶に向かう途中で、たまたま漢嬰の幕舎の前を通り掛かった。


するとちょうどそこに周勃を伴った漢嬰が戻って来るのを見かけたので、声をかけようとしたが、何やら2人とも人目を気にしながら、そぞろ歩きをしている事に気がつき、史進に相槌を打つと、しばらく様子を伺う事にした。


周勃が時折り、咄嗟の閃きを体現しようと策動する時に見せる、いたずらっ子にも似た顔を、曹参は知っていたのである。


すると、やがて慌ただしく伝令が飛び出して来て、走り去って行く。


ますますただ事で無いと感じた2人は、身内同士で悪いとは思ったのだが、そのまま事の成り行きを見定める事にした。


伝令はしばらくすると2人の武人を伴い戻って来て、その内の1人を幕舎の中に案内した。


その際、幕間が開いて中から見知った顔が現れた。


宋中(そんちゅん)だ…。』


宋中は武人と知り合いらしく、笑顔で何やら声をかけながら、肩を組んで幕舎内に 招き入れた。


漢嬰の腹心である宋中が絡んでいるとなると、より怪しさを感じるではないか?


『やはり何か在るな…。』


そう感じた曹参は中の様子を知りたがったが、何しろ中に入った偉丈夫な男の腹心と思われる武人が、ガッチリと入口付近で眼を光らせており、下手に接近出来ない。


その眼は異様に光り輝いていて、全く隙が無かった。


仕方なくそのまま様子を見る事になり、何らかの話し合いが終わって出てきた男に従って、武人の警戒が解かれ、二人連れが去って行くまでそれは続き、全く手出しの仕様が無かった。


去って行く2人の背を見送りながら、曹参は指でそれを指し示しながら、史進に再び相槌を打つと、史進は静かにそしてゆっくりと距離を置きながら、2人を尾行()けたのである。


その直後にようやく自由に動く事が出来るようになった曹参は、直ぐ様、幕舎に接近して中の様子を伺う事が出来たので、(なか)の話を二言三言は立ち聞きする事が出来た。


その結果、話し合いが終わって出てきた周勃に声を掛けて、悪巧みの仲間に一口噛ませてもらう言質を得たのであった。


『・・・・』


全てを思い出した(あるじ)に対して、史進は言葉を添えた。


「あの時、尾行()けた先は客将・司馬信の幕舎でした。それをお忘れなく!」


(あるじ)は聡明なお方だ…。皆まで言う必要は無いのだ…。』


史進はそう感じて言葉を切った。


曹参は…


「判っている…。そういう事なら大歓迎だ。早速話しを聞こうではないか?」


そう呟くと、首を縦に振って相槌を打った。


史進は頷くや(きびす)を返すと幕舎の外に向かい、外で待たせて居た趙燕に声を掛けた。


「どうぞ!お待たせ致した…。」


趙燕は史進に顔を向けると、コクリと頷く。


曹参はその間に、頭に(えが)いた相関関係を反芻(はんすう)しながら整理していた。


『周勃が話して居たのが叡鞅という男…。中に入って行った偉丈夫な奴だな…。そして、幕舎の前で眼を光らせて居た武人がこれから会う趙燕か…。となると、年齢から察するに、叡鞅が司馬信殿の息子という事に成りそうだな…。』


曹参の頭の中での整理が終わるや否や、史進に案内された叡鞅の使者・趙燕が伴われて入って来た。


曹参はその様子を眺めながら…


『成る程…確かにあの時の男だ…。』


そう感じながら、趙燕を迎えた。


「こちらが我が主・曹参で御座る。」


史進は趙燕と曹参を引き合わせると、一歩下がり、(あるじ)の邪魔に為らぬように(すみ)に控えている。

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