共鳴
趙燕一行が即墨付近に到着するや現地に張っている近衛団員が出迎えた。
先程、趙燕と接触した分隊長である。
趙燕は労いの言葉を掛けると、分隊長は嬉しそうに報告する。
「時折り北門からの入城がありますが、出て行く者はおりませぬ。西門は曹参軍の幕舎が近いせいか開門される気配は無いようです。」
報告を受けた趙燕は、曹参軍の動きについても確かめる。
分隊長は、未だ動きが無い事を伝えた。
おそらくは情報不足で身動きが取れないらしい。
『成る程…確かに不味いな…。』
趙燕は現状を再確認した上は、早急な面会を実現するために、曹参の幕舎に向かう事にした。
ー斉国東部・曹参陣営ー
事実この時、曹参も周勃同様に情報不足のため、身動きが取れずに居た。
但し、一か八か攻撃を行おうという気はない。
何しろ即墨城はかつて戦国時代に、燕の楽毅率いる合従軍の侵略を打ち破り、その巻き返しから、斉国70城を取り戻した斉の将軍・田単の反撃の地である。
その田単以来の反骨精神が即墨の住民に培われており、どんな反抗を受けるか判らなかったからである。
因みに田単は知略と武勇を兼ね備えた将軍であり、いわゆる情報操作で偽情報を流し、その撹乱で楽毅が謀反を疑われるように細工して強制送還に追い込んだ。
謀殺を怖れた楽毅は亡命せざる得なかったようだ。
その上で、交代で来た将軍・騎劫にはおもねり、油断させると、角には刀を縛り付け、尾には松明をくくりつけた牛千頭を夜陰に紛れて突入させた。
松明に火を付けられた牛たちは、尾が激しい炎で焼かれる苦しみから、狂ったようにのたうち回り、死に物狂いで燕軍の陣屋を駆け釣り回ったため、その勢いに乗じた田単軍の攻勢を受け留め切れずに壊滅するという戦果となった。
これが反撃の狼煙となったのである。
そういった特別な地で在るが故に曹参は迷っていた。
彼自身がそういう気骨溢れる人間が嫌いでは無かったからである。
無為に殺してしまうには惜しい。
何故なら、ここは将来陛下の治める地になるのだから、そういう気骨溢れる人たちは、必ず治世のための力となるで在ろう。
ならば今ここで恩恵を与えておけば、それに報いる働きを返してくれるに違いない。
『何とか話し合いで説得出来ぬだろうか?』
そう想いに浸って居るところに「客人の来訪」という報告が来た。
趙燕と名乗り、叡鞅の腹心との事だった。
火急の要件で在ると謂う。
『叡鞅??…(-ω- ?)はて誰だったかな?』
曹参は記憶力は良い方であるが、心当たりは無さそうだ。
こういう時に念を入れるのが曹参という人だ。
曹参は自らの腹心である史進を呼び、彼にも心当たりが無いか訊ねてみた。
すると史進も『(-ω- ?)…??』と自らの不明を詫びた。
とても恥じ入っており、可愛げがある。
そう謂う所が、曹参が史進を傍に置いている所以なのだが、実はこいつの取柄はそれだけでは無い。
こいつはこんな可愛い顔をして、戦場ではかなりの闘争心の塊であり、自ら前線に身を置きながら、相手を次々と血祭りに揚げるという凄まじい武人で、【血塗られた顔】という異名があった。
「殿!顔を見れば何か判るかも知れませぬ。拙者が見て参ります。」
史進は右拳を胸に当てると敬礼し、廻れ右をしてとっとと出掛けて行った。
曹参も『頼む!』と軽く頷く。
史進は余り形式には拘らぬ男で、善悪の判断も全て自分で決める。
但し、曹参には忠実な男で、いつ彼の盾となって死んでも構わないとすら考えていた。
普段はそんな事は無論、尾首にも出さずにケロタンくらい可愛らしくニコニコしながら、佇んで居る。
ちなみにケロタンとは、一時期、街の薬局の前で、訪れるお客さん達をニコニコしながら迎えてくれたお人形さんだ。
風が吹いたり、子供が頭を触ると、ユラユラ揺れる様に作られていて、可愛らしかった。
ある年代までの方々にはお馴染みだろう(笑)
話が逸れたので戻そう(^o^;)…。
幕舎を出て、陣屋の入口に歩を進めていると、1頭の馬の手綱を持った1人の男が立っている。
背が高くすらっとしていて、サラサラとした長髪が美しい。面長な顔は整っており、鼻が高く、目はキラキラと輝いている。まるでお伽の国から抜け出てきた王子様…と謂った呈である。
但し使命を帯びて、その責務を抱え込んだ1人の漢の姿がそこにはあった。
普段は穏和な顔立ちだろうに、鋭い眼と真一文字に結んだ口許がその決意を表しているー。そう史進には見えた。
『こいつはかなりの使い手に違いない…。』
史進は同時にそうも思った。
身体から迸る気の炎が尋常では無い。
史進は同じ使い手としてすぐにそう感じた。
『敵には廻したくない男だな…。』
おそらく本気で遣っても彼には勝てそうな気がしなかった。
そう想いながら…反芻していると、
『(゜O゜;あっ!』と気づく。
『そう言えば…。』
突然、想い当たる事柄に辿り着き、史進は思わずニヤリと笑った。
そういう事なら早く声を掛けて遣らないと、緊張感の高まっている此の状況下では、番兵といつ一触即発に成ってもおかしくなかった。
史進は回りくどい遣り方は嫌いだ。
故に直ぐ様一直線に趙燕の前まで進み出た。
番兵は史進の存在に気がつくと、胸に拳を当てて敬礼した。
史進は答礼するや、首を斜めに少し振ると『任せろ!』と合図した。
番兵はそれに応える様に速やかに見張りの役目に戻り、辺りを警戒している。
皆、史進には一目置いており、『頼りになる男』だとの共通の認識があったからである。
史進は「どうぞ!」と言って道を開けると、趙燕を通して遣り、彼の大切な僚馬を繋ぐため、馬屋まで案内してやった。
本来はこのような事は部下に遣らせるべきだが、史進には趙燕と謂う人が理解出来る気がした。
自分と同じ臭いを感じ取ったと言うべきだろうか?
だから自分だったらそうして欲しいと想うことを体現した…それだけなのだった。
そして、けしてその様な事は起こるまいが、彼が仮に敵対した場合、部下が大勢死ぬ事に成るのが判っているので、自分で請負ったとも謂える。
『何しろ中に通した張本人でも在るしな…。』
史進は特に何も語る訳でも無く、趙燕を先導しながら幕舎までの案内に立つ。
いつ襲い掛かられても不思議は無いくらいに無防備に、堂々と背中をさらしながら、のんびりと歩いて行く。
幕舎の前に到着すると、踵を返して趙燕に向き直るやニッコリ笑ってこう告げた。
「申し訳ないが、ここで少々お待ち下さるか?」
趙燕はコクリと頷くと返す刀でこう尋ねた。
「刀は預けなくて宜しいのかな?」
このような場合、通例では主に会わせる使者からは刀を預かる(取り上げる)ものだ。
趙燕はそう言っているのである。
史進は苦笑しながらこう応えた。
「今さら貴殿から刀を取り上げても結果は変わりますまい!それだけの事で御座るよ…。どうぞそのままお持ち下され…。」
そう言うと史進はケラケラ笑いながら、幕舎の中に消えてしまった。
趙燕はそれを目線で送りながら、涼しげな顔をして、ただひとり佇んで居る。
その顔からは既に険しい表情は消えていて平静を取り戻していた。
此の務めは必ず果たさねば成らぬ…そういった気持ちが強過ぎたためか、趙燕程の人でも少々気が高ぶっていたようだった。
それをすぐに感じとり、然り気無い振る舞いの中で自然と沈静化させた史進という男も不思議な感性の持ち主であった。
彼特有の優しさなのだろう…。
『あいつ面白い奴だな…。』
趙燕はそう想った。
こんにちは♪ユリウス・ケイです(*^^*)♪
今回は美しい漢たちの出会いを書き込みたかったので、曹参宛の面会編は少々長くなります。
趙燕と史進の此の邂逅が友情に発展して行くと良いですネ♪
てな訳で…引き続きお楽しみ下さい(笑)




