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不測の介入

ー斉国南西・高密城ー


叡鞅率いる騎馬隊は休むこと無く疾走し、ようやく高密城が視界に入って来る。


山東一帯は街道がかなり整備されているためか、予定よりは少し早く到着出来た。


趙燕(ちょうえん)、手筈通りかな?』


叡鞅は下馬しながら、尋ねる。


『ご指示通り手配済です。』


趙燕はそう応えると、皆を振り返りながら、


『こちらです。』


と言って木立の陰の方へと(いざな)った。


皆、下馬した上で、手綱を引きながら、後に続く。


木立はちょうど半円上に城郭外縁部を覆って居て、身を隠したまま、城の裏手まで到達出来そうだった。


城の南側にはおあつらえ向きの窪地があり、ちょうど城側からは死角になるため、都合が良い。


叡鞅たちは一旦そこで、馬を繋ぎ、休ませる事にした。


馬の世話役として近衛兵二名を割き、飼い葉と水を与えさせる。


道中休み無くひたすら駆けて来たため、人馬とも疲労の色は隠せないが、趙燕だけは涼しい顔をしている。


『さすがだな…。』


叡鞅は今までもこの男が疲れた姿を見た事がない。


趙燕曰く、『私が倒れたらいったい誰が殿を守るんです?』と清々しい顔でにこやかに微笑んでいたものだ。


そんな趙燕が叡鞅は誇らしかった。


『間も無く繋ぎがみえるはずです。』


趙燕はそう言うと、用意してあった水筒を渡してくれた。


近衛兵たちも水筒を取り出しゴクゴクと旨そうに飲んでいる。


李良も喉が渇いていたのか、旨そうに飲んでいた。


叡鞅も水筒を口につける。


するとその時、ガサガサっと木立を掻き分ける音がして、先行部隊の近衛兵が繋ぎに現れた。


『お待ちしておりました、若君。今のところ動きは無いようです。』


そう言うと、懐から書簡を出して叡鞅に差し出した。


『これを関起(かんき)様より預かっております。』


叡鞅は書簡を受け取りながら、少々驚いた。


『関起が来ているのか?』


近衛兵はそれにどう応えていいのか迷う…と言った体でぎこちなく応えた。


『来ていた…と言うべきでしょうか?…何しろついでに寄ったから♪と言って、必ず若君が来るから、これを渡してね♪と言って、さも忙しそうに南へ走って行かれました。』


『南へ?』


それを聞いた叡鞅は嫌な予感がした。


『詳しくは書簡を見ていただければわかるそうです。』


近衛兵は困った顔で言った。


叡鞅は早速、書簡を開き中を確かめる。


穣苴(じょうしょ)からだ…。』


叡鞅は趙燕にそう言うと、


『いったいどうなってる?』


と言った怪訝な顔をした。


趙燕は少し困った顔をしながらも、


『殿、動きが無い以上…今は待つほかありませぬ。しばらく打つ手が無いのです。その時間を利用して、まずは書簡をお読みになっては?』


趙燕は相も変わらず沈着冷静に応える。


ここで少し整理しておこう。


趙燕は太子付の親衛隊長である。


こいつは先に述べたように、叡鞅の懐刀である。


叡鞅が太子になる前、厳しい修行の放浪生活を共に歩んだ同士でもある。


だからこそ趙燕は叡鞅に絶対的な忠節を持っているし、叡鞅も彼に最大級の信を置いていた。


所謂(いわゆる)一緒に死線を越えた主従であり、真の友と謂える間柄なのであった。


そしてこの趙燕こそ、西夏国随一の最強軍団・黄金の騎士団(近衛軍)の軍団長なのだ。


次に書簡を寄越した穣苴(じょうしょ)なる人物は、叡鞅の実の弟で、司馬信の四男である。


彼は外交と法治に明るく、しかも行動力が尋常では無い。


更に周りに溶け込む技量が豊かで、進んで間諜等の任務をこなして来たためか、実の兄弟でも掴み所が無い、非凡な才能を秘めている。


その穣苴の懐刀が関起(かんき)である。


関起は簡単に言うと、叡鞅にとっての趙燕のような存在と言えるだろう。


そして彼には別の異名がある。


『韋駄天・関起』


彼は実に1日300里を走破出来る豪脚なのであった。


また用が済んだらとっとと居なくなるのも彼の特徴だ。


趙燕は命無くば、俺から離れる事は余り無いが、関起は、兄弟間の使いに出される事が度々あるため、年柄年中、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、(せわ)しなく駆けづり廻っている。


その関起が南へ向かったと聞いたら、差し詰め行く先は彭城しか無かろう。


『いったいどこで嗅ぎ付けたのか…。』


叡鞅が妙に胸騒ぎを感じるのはその点にあった。


穣苴の書簡に目を移すと、やはりその予感は当たった。


書簡の内容は以下のようなものであった。


『兄上…私は今、彭城におります。西楚王・項羽の配下・龍且将軍の配下に潜り込んでおり、兄上のお役に立てると思います。繋ぎは関起にやらせますゆえ、こちらはわたくしにお任せあれ。お小言は後程、頂戴致す所存です。』


叡鞅は読み終えると、書簡を趙燕に渡しながら、


『やれやれ…』と苦笑した。


趙燕も読み終えると困った顔をしている。


確かに身内の勝手な介入は予想外ではあった。


しかしながら、考えようによっては、これは使えるかもしれない。


穣苴は潜伏に懸けては誰にも及ばぬ実績がある。


『任せてみるか…。』


叡鞅は頭を切り換えて、即座に決断した。


世の中必ずしも想い描いた通りには運ばぬものだ。


しかも全部が全部、自分で抱え込む必要もない。


叡鞅という人は、いつまでも前提に縛られる事無く、物事を合理的に考える事が出来たのである。


『趙燕…。彭城は穣苴に任せる事にする。繋ぎを遣って先行部隊を呼び戻せ。我々は城の四方をくまなく見張る。そして穣苴の繋ぎを待つとしよう。』

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