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追跡

叡鞅と李良は臨淄城を後にした。


叡鞅の配下たちの中で、叡鞅から指示を受けた者は、書簡と臨淄城の詳細な地図を持って引き上げて行く。


後の者は叡鞅に付き従い着いて来る。


李良は逞しい配下たちを縦横無尽に使いこなす叡鞅に感嘆を禁じ得なかった。


『それにしても惜しい事をしましたね。』


李良はまだ城を簡単に棄てた叡鞅に納得がいかないらしい。


叡鞅は突然、『クククッ♪』と笑いだした。


『あんな城、その気に成ればいつでも墜ちる…。』


叡鞅は清々しい顔をしながら、ポツリと呟いた。


『李良!俺がなぜ、迷う事無く目的地に到達出来たか判るか?』


これはある意味、李良が道中に感じていた違和感でもあった。


『案内も無いのに…兄貴はなぜ迷わないのか?』


誠に不思議な行動に見えたが、あの時は目的達成に一生懸命で、考えている暇がなかったのだから仕方がない。


だが改めて言われてみればその通りであった。


『何故なんです?』


李良は聞いた。


『答えはこれに在る。』


叡鞅は(ふところ)から一枚の折りたたまれた洋紙を取り出すと李良に渡した。


李良はそれを開くと『なるほど!』と応えた。


納得が要った様子である。


それは臨淄城の地図であった。


かなり細かい所まで克明に描かれており、ところどころに注釈までついている。


『しかしこんなものどこで手に要れたんです?』


李良はふと疑問を口にした。


『それはな…お前さんの親父さん…李匠殿からお借りした物だ。返しておいてくれ!』


叡鞅はそう言って微笑んだまま先を急いでいるようだった。


李良はいささかはぐらかされている事に気がつく。


『ちょっと待て?何故親父がこんな地図を持っている?』


李良はチラッと叡鞅を見た。


そして何かを訴えるような顔をした。


すると叡鞅は『気がついたようだな…』と言って、説明してくれた。


『それはな、お前さんの爺様が家宝として大事にしていた物だそうだ。』


『お爺様が…??』李良は驚いた。


実はこの地図は、秦国が斉を滅ぼし天下統一を成し遂げた際に、秦の将軍・李信が手に入れた物であった。李信はそれを記念として大事に保管していたらしい。


それにしても叡鞅は一度として地図を拡げて見たりはしていなかったはずだ。


『記憶していたのか…。』


李良は叡鞅の記憶力の良さに舌を巻いた。


実際、叡鞅という人は一度見た物を記憶しておける能力が抜群だったらしい。


それはまるで写真に撮って切り取ったような感覚のものだったようだ。


『なるほど!それで納得が要った。』


李良は謎が解けてスッキリしたようだ。


『ここだな!』


叡鞅は目印の白い布が巻かれた木の下に到着すると、口笛を『ピュイン』と鳴らしてみせた。


すると、近くの木立ちからガサガサと音がして、ひとりの男が姿を現した。


『お待ちしておりました。こちらです。』


そう言うと男は皆を連れて木陰の中に入って行く。


そこには、(うまや)があり、既に準備が整っていた。


『ご苦労だったな、趙燕♪』


叡鞅はそう言って趙燕を(ねぎら)った。


『さて、それでは出発しようか?』


叡鞅は素早く馬に跨がると、皆を振り返る。


李良、趙燕を加えた総勢8名は騎乗するや、手綱を叩いて駆け出した。


一行は一路、高密城を目指す。


馬たちには充分な水と飼い葉が与えられているため、元気いっぱいである。


木立の細い道を馬は躍動しながら疾走する。


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