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悪魔とその弟子

そんな遠巻きに傍観している官吏達の中に、一際(ひときわ)、眼光が鋭くまるで親の(かたき)を見るように、働く二人を()めつけているひとりの人物が居た。


本人は必死に廻りに溶け込む努力をしているつもりなのだが、彼の放つ異才のごときオーラがそれを許さない。


彼は崔洋(さいよう)という趙出身の人である。


元は漢の軍師・陳平の客分として、各地を転戦していたのだが、今回、陳平に命じられてここに来ている。


言わば陳平の放った飛矢である。


陳平には、定期的に事細かな報告を求められているため、監視に余念がないという訳だ。


ところが、元々才能豊かな人物であるため、隠しきれない片鱗の欠片(かけら)が漏れてしまう。


ゆえに当然、宋中も傅首も異変には気がついているのだが、知らぬ振りを決め込んでいる。


崔洋という人は、元々外交手腕に()けた人物で、口八丁(くちはっちょう)で敵を揺さぶって来た。


駆け引きに秀でた人物で、戦国時代に各地を往来していた、所謂(いわゆる)縦横家(じゅうおうか)の数少ない生き残りである。


不平不満が喩えあったとしても、それを表に出さないのが、彼の美徳としているところではあるのだが…。


実は今回の事で彼にはふたつの怒りがあった。


ひとつは言うまでもなく、恨みのある韓信に付き従う事であり、もうひとつは、こんなつまらぬ仕事を押しつける陳平様の為さりようである。


そう崔洋は思っているが、命ずる陳平も馬鹿ではない。


『親心さ!参ったろう?』


崔洋が韓信を恨んでいるのを承知の上で、恨みが晴らせるように、自由裁量を与えるこの親心!…という訳だ。


しかも陳平の命ずるままに配属を受ければ、接近も思いのままであり、その気に成れば暗殺も可能だろう…てな訳であくまでも陳平…(いわ)く『温かい配慮である』そうだ。


『その代わり情報は、逐一流せよ♪』


と平気な顔をして恩着せがましい(-_-;)…。


陳平としては、あわよくば崔洋が調子に乗って、韓信を殺してくれれば、上出来と平気な顔でいるばかりか、それを願ってさえいる。


確かに今までは、陳平にとって崔洋は、能力が高く使える奴だったのだが、縦横家嫌いの皇帝・劉邦の手前、そういう人間をいつまでも大事にしていると、いつ自分の身に火の粉が振り掛かるか判らない。


この際、厄介払いと目的達成の駒として一石二鳥♪…という計算も働いての事だった。


『戦争中は使えるだけ使い、元は取ったから良いだろう…。』


という冷徹さが陳平にはあった。


一方、崔洋の方も馬鹿ではない。


陳平様には良くして貰っている。


手柄を挙げれば褒めてくれる。


そして…、


『その都度…(くらい)も累進したし、莫大なご褒美も下さった…。』


切符のとても良い上司である。


ところが、反対に今日の友であっても、 非情に徹しバッサリ切り捨てる…という冷徹さも持ち合わせている。


実際、戦争中には度々そんな光景を崔洋も見せられて来た。


だが…、心の中では、


『自分の才能を理解し、高く評価して下さる…そんな陳平様が私を切り捨てる日が来るとはとても思えぬ…。』


これ迄の処…崔洋はミスらしいミスをした事は無く、外交を得意としているので、相手国を翻弄し、かなりの結果を残して来ていた。


事、駆け引きに関しては、誰にも負ける気がしない。


そのくらいの自信に満ち溢れて居たと言える。


当然、口が裂けても言わないし、顔色にすら出した事はないのだが、正直な処…(あるじ)である陳平様にも負ける気はしなかった。


だが、そんな自信タップリの崔洋でさえ、陳平様に関して言えば、ひとつだけ気になる事があった。


それは、余りにも陳平様は気前が良すぎる…という一点である。


まともに考えれば、良い待遇を与えられ、贅沢に馴れた(たわ)(もの)の論理…という理由で一蹴されそうな戯言(たわごと)である。


しかし不思議と自分の心の片隅で起きる…この或る種、不審感にも似た気味悪さが、いつも着いて離れないのだ。


只、確かに落ち着いて考えれば、長い間世話になってきた恩師に向かって口憚(くちはばか)れる内容であるため、その都度心の中で打ち消していた。


ところが、この崔洋の直感は(はか)らずも大正解で、陳平は彼の墓の穴を懸命に掘り進めていたのであった。


(とど)のつまり、陳平には彼特有の計算式があり、投資した費用に満たない者には命で償わせる。


また、自分の言う事を聞かない者は、罠にきっちり嵌めて、反省しながら死んで貰う。


そして、投資分に見合う働きをした者には、莫大な褒美を与えるが、それは褒美という名の投資金を新たに加えた継続加算金であるため、一見莫大な褒美を取らせた様に見えるという冷徹極まりないモノであった。


そして成功した者には、以降もその無限ループを繰り返すという悪魔の所業なのであった。


このからくりさえ見破れば、逃れる(すべ)はいくらでもあるのだろうが、皆、大金に目が(くら)む者も多く、誰も気がつかない。


ひょっとすると、死の直前にようやく悟った者も居たかも知れないが、次の瞬間には首が地面に転がっているのだから、表沙汰には成りようがない。


対抗策としては、陳平よりも力を付けるか、或るいは、皇帝・劉邦や皇后・呂知(りょち)のお気に入りである必要があった。


崔洋はこれまで、陳平のお気に入りであったため、事、(あるじ)に関しての事柄には、得意の駆け引きも巧く発揮出来ずに居た。


どうしても頭の中が、深い霧に包まれた感覚に陥り、上手く考えがまとまらないのである。


只、唯一と言っても良い彼の直感が、頭の片隅で違和感を感じているに過ぎなかったのである。


陳平は崔洋を今回送り出すに当たり、生きて拝命しても、喩え死んで遺体となっても、十分使いきったから構わない…という冷静な計算の元で利用していた。


『我が弟子・崔洋よ…今まで永らく御苦労!だが、そなたが縦横家であったのが運の尽きよ…。』


崔洋はそんな(あるじ)の悪意については、未だに全く気がついていなかった。


謹厳実直な二人の監視に集中しており、韓信の失策すら歓迎して、根掘り葉掘り、至って真面目に調査しているのであった。


陳平は皇帝・劉邦にとっては確かに大天使(みかえる)である。


彼の数々の献策によって度々助けられて来た。


ところが、崔洋は陳平にとっては、 盤上の駒のひとつに過ぎなかったのであった。


勇ましく敵の王を絡め取って来た韓信と共に、縦横家の崔洋は消されてしまうのでしょうか…。

こんばんは♪ユリウス・ケイです(*^^*)


狩人が知らない間に獲物になっている…という悪魔の所業…((゜□゜;))恐ろしい落とし穴が待って居るのでしょうか?? 次回をお楽しみに♪


なお、新しく登場人物が増えてきましたので、活動報告を使い紹介致しますので、そちらも良かったら見ていただければ、嬉しいです♪

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