93話
「アトス様は今回の招集の内容をご存知ですか?」
ニアキスと呼ばれた青年の質問に「ふむ?」っと顎に手を当てながら考えるアトス。
自分の配下に集めさせた情報から、大凡の予想は立てているが、それを幾ら親しいからと言って、何の見返りも無く伝えるのは、都市国家の代表としてはどうなのか…と考えていた。
とは言え、ニアキスの父とは古くからの友であり、ニアキスが生まれた頃から知る身としては、多少は甘くなってしまう。
「三日前の天災の事は知っておろう?恐らくアレに関する事と思うが」
「北の海に落ちたと言う謎の…岩ですか?ですが、アレは津波が少々発生しただけと聞きましたが?」
三日前の夕方、この都市国家同盟の北に広がる海、その中心部分と思われる位置に『巨大な岩石』が落下したという情報が伝わっていた。
その日の深夜、高さ三十センチ程の高波が港を襲い、小舟が一隻、沖合へと流される騒動があった。
他の海岸沿いの港街の殆どが、多少の浸水があっただけで、それ程の被害は無かったのが幸いだった。
このキケロ都市国家同盟では、毎年夏場の大嵐、所謂台風による被害が大きかった。
その為、今回の岩石落下の時も、いち早く住民達を城壁のある都市内への避難を実施し、人的被害を殆ど発生させなかった。
普段から、海の異変への対処をしっかりしてきた結果だった。
しかし、ニアキスの知る限り、今回程度の騒ぎで非常招集を掛ける程かと言うと、疑問が残る。
アトスからの答えに、暫く考え込んでいる間に、目の前には巨大な扉があった。
各都市国家からの代表が、それぞれの問題事項を持ち込み、互いに情報のやり取りをし、この国の行末を決める『議会』への出入り口になる。
扉前に立つ衛兵に、首から下げていた『都市国家代表の証』を見せると、そのまま中へと入って行く。
護衛の兵士達は、それぞれ左右にある控室へと向かって行く。
この議会へと入れる者は、各都市からの代表のみとなっているからだ。
背後で扉が閉まる音を聞きつつ、ニアキスは指定されている席へと向かう。
この時点で、アトスとは別々の席になる。
この都市国家同盟は、それぞれの代表による合議制の国だ。
王と呼べる者はおらず、各代表による多数決により、国全体の舵取りが決められて行く。
一応、各代表に上下関係者は無いとされているがそれは建前で、実際には『都市間の力量』による席次が決められている。
上位者程前方の席になり、力が弱い程後方の席となる。
ニアキスの席は階段を下がった中央付近、アトスは階段下へと降りていく。
議会の作りとしては、闘技場のような作りになっている。
中央部分に半径四メートル程の円形の空間があり、その中心部分には地面から一段高いお立ち台と机が設置されている。
周囲の観客席に当たる部分に、各都市の代表が座り、問題事を提示する人物が、このお立ち台にて発言するシステムになっている。




