89話
『マーティーン神聖王国』は、この巨大な『メガ·ラニア大陸』における三大王国の一つだ。
別名『東の大国』と呼ばれる宗教国家だ。
とは言うものの、マーティーン神聖王国としての歴史はそれ程長くは無い。
大陸歴二千百七年に比べると、僅か百年の国になる。
しかし、マーティーン神聖王国になる前身と言うべき『マークス王国』の歴史で言えば、大陸歴と同じ二千百七年前の建国となる。
ちなみに、北の大国と言われているザクリア帝国だが、彼らは自分達を『大陸歴よりも千年も前から存在する国であり、この大陸の真の支配者だ』と喧伝し、帝国歴を使用している。
実際には、彼らの言う根拠となる物が一つも無く、古い書物や壁画等で残っている記録が二千百年前後とされている為、帝国ともう一つの国以外は、大陸歴を使用している。
北の帝国が古い歴史を持つ国であるのは確かだが、それが大陸歴以上古いかは定かでは無い為、そんな彼らの勝手な歴史観の押し付けによる戦争が、この世界では長く続いている。
マーティーン神聖王国の前身であるマークス王国は、周囲の国々と同盟を結びつつ、長い時を戦って来た。
二千年以上も続く帝国との戦いに、人々の心は疲れ切っていた。
そんな時だった、天空から三本の巨大なクリスタルが落ちて来たのは。
その日はどんよりとした空の元、人々は何時何時雨が降ってくるのかと思いながらも、足早に大通りを通り過ぎて行く。
そんな大通りの中央部付近に、天空から輝く物体が落下した。
凄まじい衝撃と爆音に、人々は恐れ慄き逃げ惑う。
混乱する場に何事かと見回りの騎士達が来ると、そこには巨大なクリスタルが大通り中央の噴水付近に埋まっていた。
相当の衝撃だったのだろう、立派な噴水は跡形も無く破壊され、瓦礫の山となっていた。
唖然とする騎士達の前に、神官達が集まりだした。
当時の神官達は複数の教義の元、それぞれが土着の神々を新興していた。
しかし、落下してきたクリスタルに最初に触れたのは、一応国教とされていた王国最大の宗教団体ミトゥラ教だった。
彼らは、偶然にも落下地点である噴水付近で、神の教えを解いていた。
クリスタルに近付いたのも、実は教えを解いていた教団幹部が、不幸にも下敷きになってしまったからだ。
どう見ても即死と言える状況だったが、彼らは救助へと動いた。
そんな彼らの前で、巨大なクリスタルは発光し、その表面に画像が映し出される。
それは、『身長一メートル程の緑色の化け物と人間の戦士が戦う姿』であった。




