8話
「クスクスクス」
「フフフフ」
「アハハ」
やけに近い場所から不思議な笑い声が聞こえる。
笑い声と言っても、人を馬鹿にする様なモノでは無く、まるで楽しい何かを見つけたかの様な、そんな感じの笑い声が複数聞こえてくる。
「う〜ん?」
思わず声が漏れる。
誰かが自分の頭を撫でている感覚に、少しずつ覚醒しだす。
『えっと…俺…確かゲームしてて…それで…』
色々な事を思い出そうとするが、どうにも纏まらない。
その事に、少しイラついていると
「マスター、眉間にシワが寄ってますよ」
鈴を鳴らすような声と言うのはこういう事を言うのだろうか?
ふと、聞こえてきた声に、そんな場違いな感想を持ちつつ目をゆっくり開ける。
最初に飛び込んで来たのは青い空だ。
本当に青い、雲一つ無い…事もないか?やけに近い位置に雲が見える。
そして不思議な事に、山が二つ見える…視界の上の方に。
いやおかしい、空があって山が見えるなら、視界の下に来なければならないのに、空の位置と山の位置が逆に見えるのだから、自分がブリッジでもしていなければならない。
しかもその山は、光輝く白銀の山だ。
世界が逆転したかの様な状況に、自分がどうなっているのか、余計に混乱していた。
「マスター?」
「?!」
視界の上、二つ並ぶ白銀の山の間から女性の顔が出ていた。
白磁の様な白い肌にキラキラと輝く銀髪、グレーの瞳が心配そうにコッチを見ていた。
その顔を見て息を飲む。
妻に似ている…妻の髪の毛は茶髪だったが、その他の部分は妻ソックリだ。
「いや、違う!!」
直様飛び起き周囲を見渡す。
そこは庭園だった。
大きさは直径十メートル程だろうか、丸い円形をしている。
その外周部分には、幅ニメートル程のレンガ作りの箱が置いてある。
『これはアレだ…妻が大事にしていた…プランター?とか言うヤツだっけ?野菜とか花とか植えるやつ、それにえっと…』
目線を右に左にと這わせながらも、自分の置かれた状況把握に動く。
幼い頃から元自衛官であった祖父に『混乱した時程周りをよく見るべし』と言われたものだった。
祖父自身剣道の達人で、遊びに行った時に木刀を振るっている姿を見た時は、まるで時代劇にでも出てくる武士の如く…だった。
父など『あの人は生まれてくる時代を間違えたんだよ』と遠い目をする事が多かった程だ。
そんな祖父に気に入られていた自分は、事ある毎に何かしらを教え込まれていた。
周囲の状況確認から山でのサバイバル術、畳の上を歩く時などは『縁を踏んではいけない、下から刀で刺されるぞ!!』と言われていたが…今の世の中、下から刀が出てくる事があるのかと今なら言える。
当時、子供だった自分は、その教えのせいで、畳の縁が怖かったものだ。
閑話休題
周囲を見れば、正面には真っ黒い壁があった。
いや、これは壁では無い、自分の『知っているモノ』だとしたら…これは城だ、『初期から愛用していた自分の城の城壁』だ。
真っ黒い壁には、いくつかの小窓が見える。
いや、小窓に見えてしまっているが、本来の大きさは、一つ一つがニ〜三メートルはあると思う。
縦長両開きの窓が、等間隔で壁に並んでいる。
その先には、円筒状の見張り台が立っている、側塔と言うんだったか?
最上部には狭間があり、そこから大砲の様な物も見える。
グルリと見渡すと、側塔の向こう側に、一段低い壁が見える。
とは言うものの、この城の大きさから考えると、低い壁でも十メートル程に見える。
そこから考えると、この城の大きさは二十メートル前後だと思われる。
目の前の城壁から目線を外せば、左側、今の太陽が自分の後ろから日を当てている事から、恐らく左が北になるのだろう。
その北側には、城より低く城壁より高い山が一つあった。
その向こう側には、少し遠いが海が見える。
問題なのはその海だ。
やけに小さく見える。
『海…だよな?』
十メートルを超える山の向こうには大きな森があり、その森の向こうに平地が見える、海岸線なのか?
その向こう側に広がる海…の上、やけに低い位置を通過する雲。
『俺の目がおかしくなったのか?遠近法が狂っている様に見えるけど…』
海面スレスレを雲が過ぎ去って行く。
彼、ユウキが住んでいた場所からは、瀬戸内海が見渡せていた。
外洋と違い波は穏やかで雲は高い位置に浮いていた。
それが目の前では、遠くから来た雲が、地平線で下側を切り裂かれたかの様な感じで流れて行く。