87話
元第五騎士団長からの情報と聞き、王宮内がざわめく。
「あの男か?しかし大陸だと?何を言っているのだ?」
「南西の砦では、海賊ぐらいしか相手がいないからな。手柄欲しさに戯言を言っているのだろう」
「そもそも、ヤツは何を根拠にそんな夢物語を?」
貴族を中心として、ヒソヒソと声が聞こえる。
その殆どが嘲りの声だった。
それに対し騎士団側はと言うと、数名を除いて貴族達を睨み付けている。
元第五騎士団長の行いは、確かに消極的とも言えるが、国境を守ると言う点に付いては十分の働きだったと言える。
寧ろ、当時の状況が後々に分かって来ると、あの時、勢いに任せて王国に攻め込んでいれば、後続として控えていた本隊に包囲殲滅されていただろう。
とはいえ、その事が判明した時には第五騎士団長は更迭され、海沿いの砦へと左遷されていた。
更に、新団長に不満を持つ殆どの者達が一斉に脱退し、第五騎士団が活動不可にまでなったのたった。
新騎士団長は人望が無い人物であった為、結局一から騎士団再編をしなければならなくなった。
ちなみに、脱退した元騎士達は、半数以上が元団長の元へと集まり、海沿いの砦で活躍していたりする。
「それにしても大陸か…くっくっくっ、なかなか面白い話ではないか?」
「笑い事ではありません、陛下」
未だに嫌味を言う貴族達を無視して笑う皇帝と、それを咎める老宰相。
皇帝は騎士団の方に目線を向けると、
「誰か、その落下したと言う大陸を調べて来い。早急にな」
っと言い出す。
その言葉に、驚きの顔をする騎士達だったが、一人の中年の騎士が前に一歩前に出る。
「お言葉ですが陛下、理由をお聞きしても?」
本来有り得ない皇帝への疑問を述べたのはザクリア第一騎士団長だ。
彼ら第一騎士団といえば、近衛騎士団を除き、皇帝直属とも言える部隊だ。
「うむ、その落下したとされる大陸だが、報告によればかなり大きいそうだな?ならば、『落下した場所には何が出来ているのか』気にならんか?」
その皇帝の言葉に、騎士団の面々は驚きの顔をし、一部の貴族達はよく分からないと言った顔をしている。
それはそうだろう、『大陸が落ちて何が出来るか』と聞かれて、咄嗟に分かる者は少ない。
「つまり陛下は、落下したそれが『島』になっているとお考えで?」
そう答える騎士団長の言葉に、その場の全員の目線が皇帝に向く。
島が出来ている、それも帝都から見て南西の海の真ん中に。
「話によれば、オークラン公国並みの大きさらしいではないか。ならばそれだけの大きさの『塊』が落ちたのだ。大陸でなくとも『それなりの何かが出来ている』のではないか?」
オークラン公国は、帝国に隣接する国であり、四十年前に臣従していた。
領土は広いが一年中雪に覆われやすく、作物も育ち難い辺鄙な土地だ。
過去には何度も帝国と戦ったが、現在は食料支援を元に帝国に従っている。
そんな公国と同じ大きさのモノが落下したとなれば…。
「くっくっくっ、もしやすると南方へと攻め込む為の橋頭堡になるやもしれんぞ」
皇帝陛下のその言葉に、その場にいた者達は一斉に頭を下げる。
南方進出、それはこの雪の多い北方の帝国民においての悲願。




