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85話

玉座の後方の大扉が開くと、そこから威厳のある中年男性が歩いて来る。

中肉中背で黒い服、襟元や袖口には金色の刺繍がされており、所々には目立ちにくく宝石が拵えている。


肩口から白いマントを羽織り、左の肩口の留め金は黄金で作られた獅子の細工にて留められている。

それだけの金細工を使っていながらも、下品に見えない作りとなっていた。


「ふむ、全員揃っておるな?」


優雅に歩きながら玉座へと座ると、開口一番にそう言い出す。

そんな王の玉座の左から、痩せ細った老人が近付き小声で話しかける。


「陛下、政治、軍事の関係者全員、地方に出ている者達を除いて集まっております」

「ご苦労、じい」


そう言うと、陛下と呼ばれた中年男性が、右手を上げる。

その動きに、自身の左胸に右手を当てて頭を下げる老人。


「陛下。公式の場では名か役職でお呼び下さい。下への示しがつきませぬ」

「分かった分かった、次からはそうする」


そう言うと、面倒くさそうに上げていた右手を振る。

そんな光景を頭を下げた騎士と貴族がジッと待つ。


じいと呼ばれた人物は、先々代から帝国に仕える宰相であり、先代、現皇帝の教育係も勤め上げている。

その為か、現皇帝も気さくに語りかける事が多いのだが、他の者達にしてみれば、皇帝陛下にすり寄る佞臣にしか見えない。


そんな周囲の視線に、心の中でため息をつくと、玉座から数歩離れた場所へと移動し、宰相としての立ち位置に徹する。

騎士団長や高位貴族の一部は、そうした一歩下がった位置で補佐する老人に一定の好印象を持っているが、不満を持った者達の方が圧倒的に多い。


『この現状が、帝国の問題点…じゃな』


既に水面下では、次世代の皇帝に対する継承戦が始まっている。

現皇帝は、今まで通りに長男を後継者としているが、その長男の性格が大人し過ぎるとして、気性の荒く単純な性格の次男を持ち上げようと企てている一派が存在する。


確かに長男の性格では、戦働きによる領土拡大よりも、自領の生産力増強の方に意識が向いている傾向が大きい。

それと対照的に次男は、戦争による領土拡大を中心とし、色々な戦略を父である皇帝陛下に上訴していると聞く。


ただその戦略眼は今一つらしく、粗が目立つ上、少しでも破綻すれば総崩れになるような危険なモノだ。

圧倒的に戦争経験の足りない素人による戦略。

基本的に力攻めの多い上訴内容には、いつも苦笑する現皇帝の姿があった。


『現皇帝陛下は、アレを子供のお遊び感覚で見ているのだろうが…危ういのぉ…』


周囲で長男と次男を煽る者達がおり、それに釣られて暗躍する者達も出ている。

今は強大なザクリア帝国だが、その内情には何時でも肉親同士による内戦の煙が燻っている。


老宰相は、誰にも気付かれないよう小さなため息を付く。


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