7話
画面上では次々と地面が割れ、そこに色々なモノが落ちて行く。
高さ50メートルはある城壁が縦にヒビ割れ、同じく分断された地面と共に沈んでいく、いや、沈んだ先が真っ白い空間になっている為、何もない空間へと落下すると言うべきだろうか?
白い空間に落ちては、小さくなって消え去って行く。
攻め手であったプレイヤー達も、壁の破片と共に落ちて行く。
プレイヤー達が何かメッセージやチャットを打っているのだろう、書き込み途中と思われる吹き出しがいくつか出ているようだったが、それらを無視する様に世界は崩壊していく。
攻め手のプレイヤーが居たマップが崩壊し終わると、隣接するマップが白く輝き始める。
「なるほど、こうやって次々と壊れて行くんだ」
画面越しに見ていたユウキはポツリと呟く。
最初のマップ崩壊はゆっくりと見えていたが、隣りのマップはあっと言う間だった。
地面が縦横に割れ、そこに寸断された壁の破片が吸い込まれて行く。
城壁上などに再配置されていたゴブリン達も破片と共に落下していく。
北側にある一面海のマップでは、マップ中心部に渦が現れ、そのまま海水を切り裂いて消えて行く。
海の上にポツリと浮いている島々も、バラバラに崩れ去って沈んでいく。
加速していく崩壊に、全体マップを開いてみれば、既に外壁部分のマップは消えていた。
最初の一マップが消滅するまで三〜四十秒掛かったのに、隣接するマップは十秒もかからず消えて行く。
外壁上を走らせていた味方側のNPCの反応も消えていた。
マウスを握る手に力が入るが、既に崩壊コマンドを止める方法は無い。
『俺の八年間が消えて行く』
そう思うと、涙が出て来る。
自分の甘さでこうなったとは言え、心に湧き上がる怒り、悲しみ、憎しみ等の感情を抑えるのは難しい。
それでも消え行く世界を見届けなければと画面を見る。
どれ位時間が過ぎたのだろう、気が付けば、自身のキャラの居る城以外の世界が消えていた。
『あぁ、これで最後がぁ』
城の床面に白い光が走り、壁を、天井をと線を描く。
ふと、自分のキャラの後ろに控えていたNPC達に目を向ける。
一番最初に作ったサポートキャラと、同じく一番最初の護衛キャラ。
特に愛着ある二人と言うべきだろう。
マウスを動かし視点を変えると、彼女達を正面に見据える。
全てが崩壊する世界でも、翼を持つ彼女も禍々しい角のある彼女も、何時もと変わらぬ笑顔を見せている。
コチラを包み込むかの様な笑顔と大胆不敵に笑う笑顔。
自身のゲームの終焉には似つかわしく無いなと苦笑いしてしまう。
そして、自身のキャラの足元が沈み、真っ白い世界へと落下して行った。
〜〜〜〜〜
『はぁ〜』っと一つため息を吐く。
画面上には『領地消滅』の文字が大きく表示され、真っ白い空間を横向きで落下していく自キャラが映っている。
八年間、チマチマと続けていたゲームが今終了した。
とは言え、キャラが消えた訳では無い。
拠点としていた浮遊大陸が消えただけで、ゲーム自身は続けられた…が、続ける気は無かった。
さっきまであった、このゲームに対する熱が冷えていた。
『あんなに悲しかったハズなんだがなぁ〜』
頭を掻きながらも、腹を押さえる。
「なんか、小腹が空いて来たな」
そう言うと、妙に軽くなった体に違和感を覚えながら部屋を出てキッチンへと向かう。
その後ろでは、机の上に置いていた携帯がブルブルを震えて、多数のメール着信を伝えていた。
さらにその後ろ、点けっぱなしのPCモニターには、何も無い真っ白い空間を落下するユウキのキャラを まるで追いかける様に共に落下する羽の生えた女性と禍々しい角の女性が映し出されていた。
二人のキャラが手を伸ばし、ユウキのキャラを引き寄せながら落下し、画面下へと消えていく。
その姿に気付く者は誰もいなかった。
これでゲーム内の話は終了です(長かった)
次から異世界話になります。