78話
目の前に浮かぶ拳大の大きさの浮遊大陸、日本列島を縦長では無く斜め横にした方向に回転させる。
現実の地図の形状で言えば、九州が西、北海道が真東を向いている状態だ。
そして、そんな日本列島全体の北に日本海、南に太平洋があり、大陸と同じ面積のそれぞれの海を囲む高さ五十メートルの壁が存在する。
その壁の外側を掴むように右手を持っていく。
その際、力を入れ過ぎないよう注意する。
無いとは思うが、間違って力を入れ過ぎたら浮遊大陸が粉々になりました…では洒落にもならない。
『無い…よな?ホント、崩れるのも勘弁して』
そんな葛藤も秒速で置き去りにし、掴んだ手に力を入れる。
ゆっくりとゆっくりと、壊れ物を扱うように、少しずつ力を入れていく。
ある一定まで持ち上げる…そんなイメージを送ると、自分の背中が押し付けられる感覚が来る。
『うん、魔力が吸われた感覚。浮き上がったかな?』
さっきまでの壁を作る時よりも弱い感覚が、魔力と思われるユウキのソレを吸っていく。
地響きも聞こえて来るが、思った程高度が取れていない気がした。
『もう少し…上に上げるイメージかな?』
ゆっくりと力を入れ、上へ上へとイメージを送る。
すると、上げれば上げる程、背中からぬける魔力量が増えて行く。
『あっ、これはマズい!!』
そう思うと、すぐに力を抜き、程々の魔力の減りまで調整する。
上げ過ぎず、下げ過ぎず、そんな微妙な線を維持しようと考える。
この時点で自分の中では、高度五千メートル辺りと思っているのだが、実際は既に千メートルに迫る状態にまで下がっていたのだった。
知らぬは本人のみだった。
そして同時刻、異世界である地上では、頭上を見上げた人々が、まるでこの世の終わりの如く大騒ぎをしているのだった
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偶然にも、それに早々気付いたのは交代間際の若い騎士だった。
彼は、この大陸の東の勇である神聖王国の更に東側の国境砦を守る騎士の一人だった。
騎士などと言うが、ただの兵士に毛が生えた程度の能力だ。
ただ若いだけでやる気も無い、父親が偉いだけの若造。
そんな彼は、今日の見張りが終われば、そのまま近くの町へと繰り出して、娼婦でも抱こうと考えていた所だった。
国境警備を三年程務めれば中央に戻れる、その後は父の所属する小隊にでも入れられてノンビリ出世街道を上がっていく予定だった。
そんな彼が、疲れた体を伸ばしているとそれが見えた。
最初は小さな点だったそれは、徐々に大きくなっていく。
「何だありゃ?鳥か?」
小さな点が大きくなっていくと同時に、それの形が判明していく。
そして、彼は固まった、固まってしまう。
それはそうだろう…何しろ『巨大な大地が自分達の方に向かって来ている』のだから。




