72話
そんな、完全に忘れていたシステムだったが、今は記憶の隅にポイッと捨て去る。
取り敢えず、マップに指先を固定したまま上に動かすイメージを送る。
それに合わせてマップ画面が動き、斜め上から浮遊大陸全体を見た画面、クオータービュー状態になる。
X·Y·Z軸の三軸の縦方向、Y軸のみを動かすようにする。
本来のマップであれば、縦軸のみ動かしたのならマップは水平状態の見下ろし視点になるハズだったが、関心の全体マップは、左斜め下側、南西側に少しだけ傾いていた。
ユウキがミスをしていない限り有り得ない表示だが『なるほど、大体予想通りだな』と、心の中で呟く。
斜めのクオータービュー状態で指先を離すと、画面が戻らない事を確認する。
そのまま指先をマップ中央から左下、傾きの先へと移動させる。
勿論、移動するイメージを送るだけだが、透明な指先は、しっかりとイメージ通りに動き、画面左端に寄って行く。
そして、そのまま左下ニ下がっている画面に指先を当てると固定、今度は指先を少し上に上げるイメージを送る。
すると、それに合わせるように画面が動き、水平になる…っと同時に、何やら体の中から、よく分からないが何かが抜けていく感覚が出てくる。
『背中から玉座に向けて何かが抜けていく感覚、やっぱこれ、魔力だよな?う〜ん、だったら何でフラフラになったんだ?この手の物語だと魔力切れってやつ?でもゲームの時は、魔力がゼロになっても問題無かったし…むむむむむ?』
っと、画面内の浮遊大陸のマップを水平にしながらも考えに没頭する。
この時点で、ユウキは現実とゲーム世界との違いに対する認識が甘かった。
一応、現実になった事で色々と変化があった…とは思っているが、どうしても心の奥底ではゲーム基準で考えてしまうのだった。
そんな時、リリーナの焦った声が聞こえてきた。
「マスター大陸が!!この浮遊大陸大陸が雲の下まで落ちてます!!」
っと。
〜〜〜〜〜
とある海域、全長五メートル程の木製の小舟が大海原に浮かんでいた。
二隻の小舟の真ん中に木の板が渡してある形をしていて、その木の板部分に二人の人物が乗っていた。
一人は年老いた老人で、手に持った投網を引っ張っていた。
もう一人は老人よりも若い、四〜五十代の男性だ。
こちらも老人の後ろで網を引っ張っていた。
二人で協力するように引っ張る網の中には、色取りどりの大量の魚が入っていた。
二人は黙々と網を上げ、その中の色々取りどりな魚を板の上に上げていく。
『今日もよう取れた』
老人がそう心の中で呟いていると、自分の上に大きな影がかかる。
「はて、雨雲でも流れてきたかの?」
老人の今までの経験上、今日、雨が降る気配は無かった。
肌に掛かる湿気等感覚で覚えた天候の変化だったが、今日は一日晴天のハズだった。
『感が鈍ったか?』と思い、空を見上げて驚いた。
自分達の小舟の上を巨大な岩石が通り過ぎているのだ。
老人だけではない、後ろにいた男性も口を開けて呆然としていた。
いったいどれだけの大きさ?そう思っている彼らの頭上を巨大なそれは悠々と通過していった。
これが、この世界で初の浮遊大陸発見になる。




