6話
『崩壊』
その言葉の通り、自分の所持する領地を崩壊させるコマンドだ。
使い方は単純、相手に渡したくない場合に使用するコマンド、ただの嫌がらせだ。
『折角作った自分の領地を他人に荒らされるのは嫌だ』『圧倒的な戦力差なのに無抵抗で奪われるなんて』と言う多数の要望から出来たシステムの為、攻め手側、特に上位プレイヤーの受けが悪かった。
何しろ、もう少しで攻め落とせると思った瞬間、相手の領地が消え去るのだから。
そこで、この崩壊コマンドを使えるのは、中位から下位のプレイヤーのみとなった。
皮肉にもこの処置によって、上位プレイヤーが下位プレイヤー狩りをしなくなった。
さて、ユウキの場合、領地は上位プレイヤー並みにあるのだが、総合能力で中位の下辺りの実力に分類されている。
領地の広さよりも、そこに住む住民、NPCの数が圧倒的に少ないのだ。
「あ〜やっぱ海を渡って攻める気かぁ〜」
相手側の領地となったマップは、クリスタルで覗き見る事が出来なくなるが、全体マップには赤い光点として、相手キャラの動きが映っている。
見れば、半分が占領されたマップ北に位置する海側に集結していた。
「つまり、何らかのアイテムは準備してたって事…かぁ〜、はぁ〜俺ってマヌケ」
そう言うと、もう一度全体マップを見る。
コチラから送り出した高レベルのNPC達は、まだマップの左下、日本列島で言うと、九州南部を越えて沖縄本土から外周の壁へと差し掛かった所だった。
そこから六十ニマップ程東に移動しなければならない為、どう考えても、ここから占領地を取り返すのは時間の無駄だ。
こっちが占領地に向かっている間に、本隊のプレイヤー達は、直接海を渡り北上、首都を落とす気なのだろう。
今居る城に侵入して、王である自分のキャラを倒すだけで、全てが手に入るのだから。
「こんなつまらん戦い方をする連中に、たった一部でも領地を明け渡すのも、城を落とされ全部を渡すのも絶対イヤだからなぁ〜」
この領地に愛着が無い訳ではない。
寧ろ、愛着有り過ぎて、リアル生活に問題が起こるレベルだ。
主に妻との仲が…だが
「アイツとの仲も拗れたままだし…離婚はもっとイヤだからなぁ〜」
ボソリと呟くと、マウスのカーソルを崩壊コマンドの上に持ってくると、一つ深呼吸をした後にクリックする。
BGMが消え、システムが作動する。
〜〜〜〜〜
「やったぜ、ついに領地ゲットだぜ!!」
「まだ一個目だろ?」
「バーカ、これから進撃して行くんだろ〜が!!」
「君ら、いいから船用意しろって。十人乗りの小さな物しか買えなかったんだから、二つはいるんだし」
「おい、二人余んぞ!!」
「二人は置いてきた、この戦いについてこれない」
「おい、俺を餃子扱いすんな!!」
ヘッドホンから聞こえる声に思わず口角が上がる。
ここに居る二十ニ名は、全員同じ大学の仲間達だ。
サークル仲間だったり趣味仲間だったり、色々な理由で集まった連中だ。
最近までは、某有名Y○uTuberに全員で粘着して生配信の邪魔をしたり、某FPSゲームに三人一組七チームの部隊で殲滅戦を仕掛けたりと、やりたい放題していた。
そんな中、このゲーム、キング·オブ·キングオンラインをやりだした理由は、仲間の一人がとあるネット情報を見ながら
「このゲームってさ〜、メッチャ優しい人が多いとか言ってるじゃん?何か偽善臭くね?」
そんな一言から始まった。
「あれだ、コイツらの偽善顔暴いてやりてぇよな?」
「本心ドッロドロだろ〜」
会った事も無いプレイヤー達の悪口を言ってると、誰かが言いだした言葉で盛り上がる。
「今度はこのゲーム荒らしてやろうぜ!!」
と。
ただ荒らすだけじゃ物足りないと色々考えた結果、コイツらが時間を掛けた領地ってヤツを奪って、壊しまくってやろと言う事になった。
ついでに動画に撮って晒してやれば…やべぇ、楽しくなって来やがった。
そうして集まった仲間達と、チャットやメールでやり取りし、決行する事になった。
準備に半年も時間が掛かるとは思ってもみなかったが…。
そうして日々、アイテム集めや自キャラのレベル上げをやりながら情報を集めると、丁度良いカモがいた。
ネットの掲示板によると、このゲーム内でも有名な武具作りの職人で、コイツがいなくなったら攻略が破綻…とまではいかないが、今後が厳しくなるらしい。
そんな職人の拠点を手に入れて荒らしてやったらどうなるか、そう考えるだけで楽しくなるってものだ。
半年間、初心者らしく『武器も防具も足りていない振り』をしながら近づくと、それはそれは見事なお人好しっぷりを発動し、態々専用の武器まで作ってくれるのだから笑いが止まらない。
自分のキャラの右手を見れば、紫色のエフェクトの掛かった禍々しい剣が目に入る。
製作者曰く『攻撃力は低いがランダムで毒効果から呪いまで掛かる仕様』だとか。
初見殺しで、たとえ高レベルプレイヤーであっても、油断すれば倒せる武器とか言っていた。
「まさか、自分で作った武器で攻撃されるとは思ってもみないだろう」
ついつい出た言葉に
「鬼だコイツ」「鬼畜だよなリーダーは」「ひでぇヤツ」と、仲間から言葉が返ってくる。
動画の方も、生放送にしていたせいか、好意的なコメントは三割未満、批判的なのが七割以上来ていた。
「はん、クソオタ乙!!」
と煽ってやると、更に批判的コメントが溢れかえる。
加速する批判を眺めながら、さっさと甘ちゃん野郎倒してこの浮遊大陸奪ってやろう、そう思いながらマウスを動かそうとした瞬間、画面が真っ白に発光、自分のキャラが、地面の破れ目から真っ逆さまに落下していくのだった。