68話
何しろ魔力の回復は、その場でしゃがみ込んでいれば簡単に回復する世界だ。
魔力の元と言える魔素が、それこそそこらじゅうにあるアルテミア大陸の世界の住人にしてみれば、『ジッとしていれば回復する魔力をわざわざお金を出そうと言う者はいない』と言う訳だ。
そんな魔力回復薬だが、プレイヤーには必須アイテムだ。
戦闘中に魔力が切れたからと言って、その場でしゃがみ込む訳にもいかない訳だ。
そんなプレイヤーの一人であるユウキの拠点に、魔力回復薬が無いハズがない…っと言うか寧ろ、この浮遊大陸での収入源の一つだったりする。
この浮遊大陸の中心都市、そこに住むエルフ達が作っているのが回復薬だ。
体力回復薬から魔力回復薬まで、全てのポーション類を作っている。
リリーナが持ち込んだ代物も、そんな物の一つだ。
そのポーションを持って、意気揚々と玉座の間にやって来た…までは良かったが、そこからマゴマゴしている状態になっていた。
某有名偉大なるマジックキャスター様ラブな翼を持つ美人さんであれば、目の前で敬愛する主が倒れていれば、それはもう『据え膳食わぬはなんとやら』と、アッサリ一線を超えている事だろう。
そこに関してリリーナは、残念な事に実行する度胸が無かった。
実の所、この別世界へと来た当初、気絶していたユウキを膝枕するだけでも、リリーナ本人的にはかなりドキドキしながらの行動だった。
大人の女性の姿でありながら、そっち方面にはとてつもなく疎い為、今のモジモジ状態へとなっていた。
見張り台から落下していったエルザが今のこの状態を見れば、『バカバカしい、焦って損した』とでも言う所だろう。
そのエルザは、上手く勢いを殺して五点着地を決めると、そのままの勢いを殺さぬよう立ち上がりダッシュで城の中へと戻ろうと走り出した所だった。
問題なのは、そんな事で時間を費やしている間にも、浮遊大陸が南西の方向へと傾き始めている事だった。
〜〜〜〜〜
ユウキの顔をジッと見ながら、どのタイミングで魔力回復薬を飲ませようかとしていると、大きな振動にリリーナの体が揺れる。
先程までとは違い、一際大きな揺れだ。
そこで『ハッ』となる。
そうだ、そんな事を考えてる間もしてる間も無い…と。
頭を左右に振り、さっきまで考えていた雑念を振り払う…つもりだったが、どちらにしても何とかしなければならない状態だ。
自分の考えが間違っていなければ、エルザの言った通り、この浮遊大陸が落下してしまう。
そうなれば、浮遊大陸に住む何万人もの人達がどうなるか…。
一度はバラバラに崩壊しながらも、何故か無事だった浮遊大陸、それを『また』危機に晒す訳にはいかない…っと、気持ちを切り替える。




