67話
睨み付けるエルザを見張り台の上に残し、リリーナは翼を広げて滑空していく。
その背中を見ながら
「何が『後は任せろ』だ。ったく…結局、どうするか言わずに戻りやがった」
胸の前で組んでた腕を解くと、両腰に手を当てて『はぁ〜』っと深いため息をつく。
どうせ回復薬を飲ませてハイ終わりって所だろ…っと思った時点ではたと気づく。
『回復薬を飲ませる→相棒の意識が無い→しょうがないな〜→何とか飲ませるには…』
「あんの鳥女ぁー!!」
リリーナが何をしようとしているか気付くと、見張り台の縁に足を掛け、一気に飛び降りようとする。
目指すは玉座の間、そのバルコニー。
しかし、今日のエルザには運が無かった。
彼女が飛び降りようと足に力を入れた瞬間、グラリと足元が揺れる。
結果
「あっ?!」
斜めに飛ぶハズだった体は目標を大きく逸れ、テラスの横六十センチの空中を落ちて行く。
高さ十メートル以上ある空間を落ちて行くエルザ。
ただし、彼女は頑丈さで有名な有角族、ここ程度の高さでは、余程のヘマをしない限り掠り傷一つしないとだけ言っておく。
〜〜〜〜〜
同時刻玉座の間、座席部分に寝っ転がるユウキの側で、正座をしながらモジモジしているリリーナの姿があった。
リリーナの膝下には、青色の細長いガラスビンが五本置いてある。
細長いガラスビン、科学の実験等で使用する試験管だ。
口元部分はコルク栓で封しており、内容物が溢れる心配は無い。
試験管の中身は原色青色の液体だ。
これは、彼女達の世界での回復薬だ。
ゲーム的に言うと、青い液体の回復薬は魔力回復薬、所謂MP回復薬と呼ばれるヤツだ。
この青色が濃ければ濃い程効果が高まる。
リリーナの持って来たそれは、彼女の世界でも上位の魔力回復薬だった。
ただし、これにも問題がある。
キング·オブ·キングオンラインと言うゲームでは、当然ながら回復薬の需要は高い。
ただしそれは体力回復、ゲーム的にはHP回復薬と呼ばれるモノが主流だ。
実際、このゲーム内では、プレイヤー間の戦いにおいて、魔力よりも体力の残高の方が重要になる。
魔力が余って居る魔法使いが多数居ようとも、その魔法使いの体力が一撃死する程度であれば怖くも無い。
範囲攻撃一つで纏めて倒す事も出来るからだ。
その逆に、体力の高い戦士が波状攻撃してこようものなら、迎撃も難しくなる。
そのせいかこの回復薬も、体力回復の方は性能が良く、回復量も多いが、魔力の回復に薬を使う者は少ない傾向にある。
勿論、まったく無い訳ではないが、この考え方は、ゲーム内の住人達も同じ傾向にあった。




