61話
見張り台の一角、北東にある塔にその人物は仁王立ちしていた。
健康的に日焼けした褐色の肌に茶色い瞳、ライオンの鬣たてがみの様な金色の髪の毛を持つ背の高い女性。
威圧感あるツリ目が、城の北側、更にその奥をジッと睨み付けている。
頭部のこめかみ辺りから後方に向けて伸び渦を巻く二本の角がピクリピクリと動いている。
禍々しい赤黒い色合の小手で覆われた腕を大きな胸の前で組み、なんとも不機嫌な顔をしている。
そんな褐色の彼女の頭上を影が通過する。
目線だけをチラリとそっちに向けるが、すぐに何ら興味が無いとでも言うかの如く視線を北側へと向ける。
「おっとっとっとっ…とおぉぉぉ?!」
褐色女性の頭上で小さく旋回した瞬間、急に吹き荒れた風に姿勢を崩され、空中で仰向け状態になり一気に失速する。
背中側から見張り台に向かって落下し出すが、両足を上から下へと振り下ろす。
腰を中心に体が回転し、見張り台の縁へと着地する。
姿勢の悪さや高さが足りなかった事から、少々見苦しい…具体的に言うと、膝を曲げて勢いを殺した際、ガニ股になってしまった程度だが。
その状態から何事も無かったかのように立ち上がると、スカートの裾を整えて、褐色の女性へと近付いいく。
「エルザ、何か問題でも?」
「…」
「エルザ?」
「……」
「ちょっとエルザ?!」
手の届く範囲まで近づくと、エルザと呼ばれた褐色の女性の左肩に手を伸ばし軽く揺する。
「…裏切り者」
「な、何の事よ?」
「ワタシは見てたぞ、相棒に膝枕したりナデナデしたり…裏切り者」
「ちょっと、人聞きの悪い事言わないでよ。マスターが気付くまでの間、ちょっと支えていただけじゃない?裏切り者扱いされる謂われは無いわよ?」
「ふん、ワタシがこんな所で周囲警戒してる間に、そんな楽しそうな事するってのが裏切りだ!!」
「うぐぅ…」
コチラを見ず北側を見ながらそんな事を言われて、思わず口籠ってしまうリリーナだったが、『コホン』と一つ咳払いする。
「そんな事より」
「そんな事とは何だそんな事とは!!ワタシには大問題だぞ!!浮遊大陸が落下し始めている事よりも大事な」
「ちょっと待って?!落下?今、落下と言ったの?」
そう言われて、やっとリリーナの方を向くエルザだったが、『何を驚いている?』とでも言いたげな顔を見せている。
『あぁ、そうだった。この娘はそういう娘だったわ』
向こうの大陸では、『知性ある鬼人』と呼ばれる一族。
浮遊大陸では『有角族』と呼ばれ、戦闘に特化した種族として有名だ。
戦闘特化型と言う種族の特徴というべきか、いざという時の優先順位を『自分の感情優先』にしてしまう所があった。




