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58話

内心ハラハラとしながらも、ユウキの額に手を当てて、回復魔法をかけてみる。

当然ながら何の効果も無かったが、一瞬光がユウキの額に灯り全身に広がる前に消えていった。


「回復魔法が効かない?!…いえ、回復の為の魔力が途中で消失している?」


回復魔法を使用すれば、かけられた本人の損傷箇所等へと魔力の光が移り修復するものだが、今のユウキにはそれが無い、つまり…


「これは、怪我や病気に関するものでは無い、だから回復しない…のは分からないでもないけど…何故、マスターの体内に入った魔力が消えたの?」


本来であれば、体に異変の無い者に回復魔法をかけても、そもそも魔力が通るはずが無い。


「でも、魔力は入っていった…つまり、魔力が入っていく何かはあった…魔力?」


まさかと思い、再度ユウキの額に手を当てて魔力を送り込む。

今度は回復魔法では無く、単純な魔力を送り込むだけだ。


何の変哲も無い魔力『だけ』であれば、体内に取り込んだ後、空気中に漏れ出すハズだったが、ユウキの体内から魔力は漏れ出す事は無かった。

つまりは


「マスターの魔力がどんどん減っている?!」


そう言うと顔を青褪めるリリーナ。

この浮遊大陸の世界の住人であれば、体内の魔力が無くなると言う事が死と直結する事に繋がる。


あり得ない話では無かった。

元居た世界である『アルテミア大陸』ならば、他者の魔力を吸い取る魔物もいたからだ。


では今は?今のこの状況は、『その手の魔物が、何処からかマスターの魔力を吸い取っている』のか?


結論から言えば『分からない』だ。

今の浮遊大陸は『非常事態』となっている。


その為、リリーナがマスターであるユウキの側で守護をし、もう一人の仲間である『南斗の五将』のおさが、この城を中心とした場所の確認に赴いている。

自分達二人しか居ないとはいえ、マスターの守護を任される程の腕前だ。


そう簡単に近付く事も、ましてやその守護しゅごを掻い潜って、気付かれずに襲う事も無理だ。

それくらいの力は持っていると自負している。


「っとなると…それ以外の何か?でも、そんな事は後回し。マスターの今の状況さえ分かれば後は」


こうして考え込んでいる間に、ユウキの魔力がどんどんと減って行く。

それならば…と、リリーナは自分の両手をユウキの胸の上に当て、ゆっくりと魔力を送り出す。


「マスターの魔力の減る速度は、それ程速くない。ならば、その速度に合せるように私の魔力を送り込めば良いだけ」


最初は、小指程の小さな光を発していたが、徐々に光が大きくなっていく。


『うん、このくらい…ね』


少し大きくなりピンポン玉程度だった光が、拳大こぶしだい程になった所で止めると、その状態を維持する。


『これは…結構辛い…わね。でも…マスターの為…なら』


玉のような汗を流すリリーナだったが、集中を乱す事無く魔力を注ぎ込んでいく。


後々の話になるが、この時の判断がユウキの命を繋ぐ事になった。


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