299話
〜〜〜〜〜
ユウキが、南方からの人間を受け入れてから七日が過ぎた。
その間に他の国々、主に北の帝国と東の神聖王国からの手紙が煩い程に来た。
曰く、『直接の対談を求む』だ。
それを見たリリーナは、自らの執務室で「はあ〜」っと小さなため息を付く。
リリーナの元に入って来た情報から、こうなる事は予想していた。
バレシオスの代わりに来た人間、ニアキスと名乗る『少年』だが、彼は態々帝国と神聖王国の船が付いている場所に降り立った。
当然、それぞれの国の者達が見ていた事となる。
『あれだけ帝国と神聖王国との直接対談を断っていたのに、南方の商人は受け入れるのか』と。
そう言われる事が分かっていたからこそ、ユウキには受け入れを断るか一時保留にして欲しかったのだが、それも今となっては後の祭りだ。
ユウキ本人に、しっかりと伝えていなかった事が問題なのだから。
それぞれの国からの手紙が、僅か四日で来た事から、何らかの通信網か情報網を持っているのかもしれない…と、少しだけ彼ら人間に対する警戒心を上げる。
とちらにしても、もうしばらくはこの地に居なければならない。
そうなると、周囲の国々とも『ある程度』の付き合いをしなければならなくなる。
浮遊大陸内の戦力増加も、まだまだ始まったばかりだ。
無闇矢鱈と敵を作る必要は無い………のだが、どうしても人間族との交流には一歩引いてしまう。
彼女達有翼族は、元来女性しか居らず、子孫を残す為には他種族に求めるしかない。
とは言うものの、近隣種である鳥翼族、俗に言うバードマンと呼ばれる者達と交じるのが主流だった。
しかし千年程前、人間族が有翼族を人として認めていなかった時代には、魔物として狩られ、捕獲されれば見世物とし、時の権力者によって犯される最悪の時代があったと聞く。
そのせいか、長い時を生きた者達ほど、人間族を嫌う傾向にある。
リリーナは若い種に当たる為その時代を知らず、それ程人間を嫌っていた訳ではない。
だが、彼女の母親は違った。
人間を憎み、目に入れるのも嫌だと公言している。
その為、リリーナがユウキに仕えるとなった時など、それは猛反対だった。
一族の古手の者達も、良い顔をしなかった。
そんな一族に居たせいか、直接会ったユウキ以外の人間に対しては、どうしても友好的にはなれない。
それでも一族の中では、人間に対し友好的な方に取られているのが何とも言えないのだが………。
ユウキに仕える際、一族の者達とは縁を切ったが、今のこの状況にどうしているか、気にはなる。
「………一族を巻き込んでみるのも手か?」
ふと、あの人間嫌いの年寄り共を味方に引き入れれば、対人間戦に役立たせるのでは…と、何やら不吉な事を考えるリリーナだった。




