296話
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何とか椅子に座り直してもらい、改めて互いの名乗りをする。
さっきまでと違い、堅い口調で話すニアキスを見て、『う〜ん、俺の正体バラすの早過ぎたかな?』と、見当違いの事を考えるユウキ。
話題を変えようと、何故ユウキの事を獣人の子供と思ったのか聞いてみた。
ニアキス曰く、『通路ですれ違った人の見た目が似ていたから』らしい。
どういう事かと詳しく聞いてみれば、この部屋へと案内される時、何人かの人とすれ違ったそうだ。
その際、今のユウキに似た髪型をしていて、左右の跳ねた髪の毛の下から獣の耳が見えた事。
更に、さっきのユウキとの会話で、獣人の特徴を聞いた事から、てっきりそうなんだと勘違いしたんだとか。
真横から見れば、ピンと跳ねた髪の毛の間から覗く人間の耳に気付くハズだが、緊張していたニアキスは気付かなかったらしい。
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ちなみに獣人族だが、人間に近い見た目になる程、耳の位置が下に下がる傾向にある。
例えば、完全に獣顔になっていると、当然その獣本来の位置に耳が来る。
犬や猫などの顔なのだから当たり前だ。
それが人間に近い顔になると、通常の人間の耳の位置の少し上に、それぞれの特徴的な耳が付いている。
耳たぶ部分は人間と同じなのだが、鼓膜と、そこにいたる外耳道の位置が、僅かに上の方に来る。
耳の上側を形作る耳輪の形状が、それぞれの種族の特徴に合わせた形になって、髪の毛の外へと飛び出す。
そんな獣人達は、人間に近付けば近付く程、耳が小さくなる。
例として兎の獣人の場合、獣型での耳の大きさは、四〜五十センチはありそうな長さだが、これが人間に近くなると十センチ程度まで短くなる。
詳しい原因は分かっていないが、彼ら獣人族にとっては『当たり前』の現象として認知されているらしい。
まあ、彼ら獣人族は、そんな些細な事は気にしない性格との事。(ローラ談)
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「なるほど、このピンと跳ねてる髪の毛のせいか」
「も、申し訳ありません」
「あ〜いいよ別に。気にしてないから」
自身の耳の辺りで左右に飛び出している髪の毛を右手でイジりながらも、左手をヒラヒラとさせる。
ユウキ本心から気にしてない上、『この髪型なら獣人達の中に入り込んでも目立たないかな?』などと、別の企みを考えていたりする。
『今度脱走した際、獣人族達の居住区に逃げ込んでやろう、うん』
予想外の出来事に思わぬ情報、ユウキとしてはホクホク顔だ。
そんな理由など分からないニアキスなど、不思議そうな顔をしている。




