292話
「あ〜、ソチラの言葉なら分かるので安心して欲しい」
そのまま放置しておく事も無いと考え、目の前で頭を抱えている青年に話し掛ける。
バレシオスと十日間も話をしたお陰か、かなりスムーズに彼らの言葉を発する事が出来るようになった。
帰り際のバレシオスが、『どうせならこのまま我が国に来てくれないか?その語学力なら問題もないだろう』などと言い出したのだが、そこは丁重にお断りしておいた。
今の所、彼らの国へと赴く必要が無い。
そんな国から来た二人目とも言える人間族の青年は、何やら唖然とした顔をしている。
はて、もしかして言葉が通じなかったのか?と思った次の瞬間………
「シャ、シャベッタぁぁぁぁあ?!」
っと、驚愕の表情だ。
いや、普通に話しただけやん?
「そんなに驚く事?」
「いや、そりゃ驚くよ!!だってこの国、全然言葉が通じないんだから」
「あ〜、そういやまだ、数人しか翻訳出来ない状態だったな」
捕虜との会話やバレシオスとのやり取り、それと平行して各国の海岸線に行かせた精霊達な活躍によって、通常の会話であれば何とかなるレベルの翻訳が出来るようにはなっていた。
なっていたのだが、それをまだ誰にも広めていなかった。
まあ、実の所、この世界の人間達と会話出来るのはユウキとリリーナとエルザの三人のみ。
いや、向こうの捕虜が帰ってくれれば交渉する必要も無いと思っていたからと、そこで言語習得の情報が止まっていた。
実際、今の精霊達の役目は、各国の動きを把握する為のスパイ活動がメインだからだ。
『これは、早急に翻訳出来る人材を増やすべきか?』
頭の片隅にその事を記憶しつつ、目の前の青年の話を聞く。
どうやら彼は、ユウキの事を『通訳』だと思っているようだ。
「それにしても助かったよ。ここの人達、誰一人として会話が成立しなかったから」
心底ホッとした顔をする青年に、「それは良かった」と返答しておく。
そうしている間に、ユウキの前に紅茶が置かれる。
「それにしても凄い場所だよね。人も建物も見た事が無いよ」
安心したからなのか、急に饒舌になるニアキス。
ユウキとしても、下手に畏まれても困るので、あえて何も言わずにいる。
だが、ふと疑問にも思う。
このニアキスと言う青年は、バレシオスの命で来たと言っていた。
そうなると、交渉相手が子供であると聞いているハズだ。
見た目が子供であるユウキが目の前の現れれば、その相手だと思う…のではないかな〜っとユウキは思うのだが、どうにもそんな雰囲気には見えない。
これにはユウキも疑問顔だ。




