290話
そうして、別室に居ると言う『人間族のお客人』の元へと歩いていく。
案内役として、メイドのフィアーがユウキの左前方を歩く。
「リリーナに報告するのはいいが、あの二人に対して『俺から罰をあたえた』としっかり伝えてくれよ」
「………何の事を言われているのかは分かりませんが、承知いたしました」
何の感情も無いかのような受け答えをするフィアーの横顔をチラリと見やる。
フィアーは猫の獣人族だが、完全に人間寄りになっている為、ひょっこり出ている耳さえ隠せば、完全に人間と錯覚する事だろう。
そんな事を思いつつ通路を歩く。
ユウキを見かけた獣人やエルフ達が道を開け、軽く頭を下げて見送ってくる。
いや、立場的には間違ってないんだが、どうにも慣れないと言うか何と言うか…。
そんなモヤモヤした感覚を覚えつつ、ホールの右側にある小部屋へと案内されるユウキ。
いやコレ、城の中庭を真っ直ぐ突き抜けたら早いんじゃ…え?様式美?そういうもの?そ、そうですか、分かりました。
何だかモヤモヤ感が追加されてしまった。
そんなユウキの前には扉があり、その左右にキラキラした白銀の鎧を着たドワーフが二人立っている。
手に持つ武器も、やけにキラキラと輝いているのだが、これを見たユウキは『おやっ?』と疑問を持った。
そんなユウキを端に置いて、ドワーフが扉をノックした後、一呼吸置いて開ける。
うん、何か…凄い手間が掛かってないかな?
ってか、そんな作法、何処で習ったの?
更にモヤモヤ感が追加されたのだが?
部屋に入ると、真ん中にテーブルと三人掛けのソファーが二つ置いてあり、その手前側の席に一人の青年が座っていた。
ユウキが入って来た事に気付くと、慌てて立ち上がる。
『何て言うか…立ち振る舞いが日本のサラリーマンっぽい?』
冷や汗を流してながら、周囲の状況にオロオロしている様は、社長室に呼ばれた社員そのものってイメージだ。
そんな慌てる彼に手で座るように指示すると、奥のソファーへと座る。
背後には、音も無くフィアーが立っている。
そのままジッと目の前の青年を見る。
歳は二十代…後半かな?顔立ちは中東アジア、インドとかの人が近いか?日に焼けた肌のせいでそう見えるのかもしれないが、ごく普通の青年だ。
着ている服は、ふんわりとした装いのズボンを腰に巻いた帯で固定し、上半身をベストにような物を羽織っている。
武装は解除されたのか何も無さそうだ。
他には、所々に金の装飾品が見え隠れしている。
バレシオスと会った時も思ったのだが、意外と質素な装いに見える所が好感が持てる。
キンキラと金持ちアピールしてくるような人物では無さそうだし。
初めて会う人物に対し、そんな評価をするユウキだった。




