289話
その過程で送り込まれて来た人間族が一人、今この城に居る。
「あ〜、その場で追い返す事は出来なかったのかな?」
「それが、彼の者を乗せて来たと思われる船は、彼一人を降ろすと、直ぐ様出港していったようで」
そう言ってレンウェは肩をすくめる。
それはそうだろう。
まさか、自分達の目の前で同族を放り出し去って行くとは思いもしないだろう。
エルフもドワーフも、同族意識が強い種族だ。
例え、個人的に何らかの『わだかまり』があったとしても、いざという時は同じ種族と言う事で、互いに協力し合う。
今回のように、放置していくなど、考えられるはずも無い。
だからこその呆れ顔なのだろう。
そんな彼に労いの言葉を掛けた後、その交渉人をどうしたのか聞いてみる。
すると、彼らの独断で城まで連れて来たらしい。
さすがに『余所者だから』とその場に放置して行く訳にもいかず、自分達が報告に戻るついでにと連れて来たそうだ。
なるほど、入室時の顔はそれが原因がと一人納得する。
余程の理由も無く、ただ可哀想だからと同情して浮遊大陸内に人間を招き入れたとなれば………うん、ダメだねこれ。
この場にリリーナが居なくて良かったと胸を撫で下ろす。
現在リリーナは、帰って来て来た同僚二人を連れて、街へと出掛けている。
彼らに、新たな街の設計と今後の取り組み、更に現在の問題点洗い出しなど色々と話し合っている。
それと同時に、彼ら二人の居ない間に何があったのかを説明してくれていた。
折角、ゴタゴタが片付いたと言うのに、リリーナに休みが一つもも無いのはどうなのかと思ったが、本人の希望により仕方がなく実行中。
「休むなんてとんでもない!!」
「お、おう………」
凄まじい剣幕でそう言われたのだが、心の休息は必要だと思う。
ちなみにエルザは、休めと命じる前に休息に入っていた。
うん………素直に休んでくれるのは嬉しいのだが、せめて一言断ってから休んで欲しい。
勝手に『今日休むから』と伝言されて、メイド達も困ってたし…。
いや、『相棒に伝えといて』じゃ無いんだよ君?分かってる?社会人としての常識…彼女の立ち位置は社会人なのか?
兎に角、現在のこの城には、そういった指示出しをする者達が不在となっている。
だから直接来た…と。
「よし分かった。この件に関しては、俺の独断で招き入れたと言う事にする。リーグとレンウェは、俺の指示の元、その人間を連れて帰って来たと言う事で」
「えっ?!」
「待ってくれ親方様、それはさすがにマズいのでは?」
やはり、自分達の独断がマズいとの考えはあった訳だ。
だが、こうしておかないと、間違いなくリリーナが動く。
だから………
「問題無い。君達二人は俺の指示に従った。良いね?」
「しかし主様…」
「親方様…」
「良いね?」
何やら渋る二人だったが、ここは強引にでも従ってもらう。
折角の人材をこんな事で失う訳にはいかない。
結局、二人共ガックリ肩を落として従った。
信賞必罰とは言うものの、この程度の事で彼らを罰する必要は無いと思うんだが…特にリリーナ対策。
一応、勝手な行動を取ったと言う事で、三日間のトイレ掃除を命じておいた。
無罪放免は本人達も望まないとの事だったので仕方がない。




