288話
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「すまない、もう一度説明してくれないかな?」
書類の束に苦戦しながらも、中身を確認していたユウキの動きがピタリと止まる。
ユウキの目の前には、直立不動で立っているドワーフの騎士団長リーグと、同じくエルフの魔法師団長レンウェだ。
彼ら二人は、先の南方からの侵入者対策の際、部隊のまとめ役としての任務を全うした事により、正式に団長として任命された、
とは言うものの、やる事は今までと変わらない。
仕事内容が変わらないからと言って、それで終わらせるのも何かと思い、彼らの給与は少しだけ多めにするように指示を出しておいた。
今の浮遊大陸では、あまり意味のある事では無いが…。
その二人が、難しい顔をしながら入室し、捕虜引き換えが終わったとの報告をした後、何やら問題が発生したと言いだした。
詳しく聞いてみると、どうやら人間が一人、書簡を持ってやって来たとの事。
「それがコレかぁ…」
手元に広げられた書簡を片手に、さてどうしたものかと考える。
内容は単純だ。
『私の代わりに代表を送る。よろしく頼む。バレシオス』
まあ、端折るとこう書いてある。
まさかの南方の都市国家同盟からの使者おかわりだ。
書簡の出たしはよくある文で、季節の挨拶から始まり、この浮遊大陸での交渉の日々の思い出を連ねている。
いやはや、よくもここまで美化出来るものだと関心する程の褒めっぷりだ。
あの塩対応で、こんな褒め言葉が出るのが恐ろしい。
ふと自分だったらどうするだろうと考える…が、直に無駄な事だと頭を振って思考をクリアーにする。
どうせ、リリーナ達に丸投げする未来しか見えてこない。
そう考えて、再度書簡に目を通すと、中盤から最後の方に掛けて、何とも困る文章が目に入る。
曰く、お土産の品々の出来が大変良く、是非とも追加が欲しいと書いてある。
ちゃんと代金を多めに払うと書いてあるが、別にそこは気にせず、定価で良いと思っている。
問題なのはその後、代わりの交渉者の話だ。
交渉者とは書いていないが、明らかに自身の代理としている。
まだまだ『コチラの大型船購入』を諦めていないらしい。
いやホント、勘弁して欲しい。
大型船どころか、小型船すら販売する気は無いとハッキリ言ってあるのだが、どうしても諦められないらしい。
まあ、向かい風を無視して疾走する帆船なんて、彼らの常識から考えればあり得ない物だろう。
ただ、その大型船の原動力は、『魔法と言うこの世の法則から外れた代物』なのだが、何度説明しても聞き入れてくれない。
目の前でエルフ達が、直接魔法を使って帆を張ったと言うのに、それでも頑なに売って欲しいと言う。
………まさかと思うが、エルフ達魔法の使える者達も一緒にと思っているのでは無い…よな?
少し不安だ。




