286話
「我らが王よ。可愛らしい姿形になったようだが、『いめちぇん』と言うやつなのか?」
一歩前に出たと思うと、そのまま左胸に右手掌を当てて軽く頭を下げてくる。
その動きに合わせて、サラリと肩から落ちた髪の毛の動きも合わせて、何処ぞの壁画のように様になっている。
「………そこに触れてくれるなよ、アクスレビオ。詳しい理由は俺にも分からないからな」
「ふむ?」
椅子の背もたれに体重を掛けながら、「はあ〜」っと深いため息を付く。
そのユウキの姿から何かを察したらしく、小さく微笑む古代エルフ。
ユウキの周囲にいるエルフ達が、男女を問わず頬を赤らめている。
あれだな…アクスレビオ、君、魅了のスキル持ってたりしないよな?
「おい『エルフの』、本当にその子供が………アヤツなのか?間違いなく?」
仏頂面の強面男、古代ドワーフのイシゴリドは、眉間にシワを寄せながら腕を組む。
何かしら思う所はあるようだが、今の感情的には困惑の方が大きいようだ。
「イシゴリドの言いたい事は分かるけど、俺は正真正銘ユウキだ」
「うぬぬ…しかしだな」
「そこまでにしておけ『ドワーフの』。魔力を見る事が出来ぬお前では分からんだろうが、我らエルフ族の者達は皆、主である事を理解しておる」
その言葉でユウキは理解した。
エルフは魔力が見れると言っていたが、古代エルフのアクスレビオも同じく見えていた訳だ。
まあ、普通のエルフが見えている時点でそれの上位種である者が見えない訳は無い。
ここまで言われれば黙るしかないイシゴリド。
渋々ながらも左胸に右拳を当てて、軽く頭を下げる。
もしかしてコレって、彼らの敬礼みたいなモノ?
今度リリーナにでも聞いとこうと思い出つつ、二人には暫くの間の休息を言いつけた。
突然の休息に驚いた表情だったので、現状のゴタゴタ騒ぎを説明しておいた。
とは言っても…
「ほほう、浮遊大陸落下に人間共の襲来ですか」
「我らのおらん間に何をやってたのやら」
楽しそうなアクスレビオと呆れ顔のイシゴリド。
呆れる理由は分かるが、楽しそうな理由がわからん。
結局、リリーナ達の方が終わらない限り、コチラからの行動はお休みだと言い含めておいた。
この二人が戻って来た事で、他に色々とやれる範囲が広まった。
「ほほう、何をなさるおつもりで?」
「ん?ああ、内政と戦力増強を本格的にやろうと思ってな」
エルザとも話し合いをしたのだが、今後はちゃんとした戦力を持たなければならないと実感した。
今回の人間達による『侵攻』も、そもそもの原因となる異邦人達の戦闘行為も、浮遊大陸の戦力が明確じゃ無かったがため引き起こされたようなものだ。
「俺の甘さが現状の混乱の元だ。そこはしっかりと対処するべきだろう」
この二ヶ月間、エルザとリリーナと話し合ったが、結局は目に見える力を付ける必要があると結論付けた。
この十日後、帝国と神聖王国との交渉がやっとまとまり、リリーナとエルザが帰還してくる事となった。




