283話
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この異世界に流れ着いて、まもなく二ヶ月が過ぎようとしていた。
その間に、例の捕虜達の各母国と南方の商人達と、多少のやり取りは実行中。
対人によるやり取りでは無く、手紙のやり取りのみだ。
相手側の手紙は、各国の快速船が浮遊大陸の外周近くまで寄って来て、小舟で上陸。
そこで待ち構えている浮遊大陸の守備隊、主にエルフ達に手渡しする感じだ。
その後数日間沖合で待機し、返答を持って帰る手順となっている。
実の所、コチラからの手紙の類は、精霊達を使って直接送り込む事が出来るのだが、下手にそれをやり過ぎると、向こう側に要らぬ感情を抱かせるのではとの意見が出た為、現在はやっていない。
まあ、最初に送った時は、相手側の守備状況を安々と突破した挙げ句、王の間にポイッと投げ入れた事で、警備担当の騎士達が『クビ』になった…らしい。
そのクビが『仕事を逐われた』だけなのか、リアルに『切られた』のかは分からないが…深く追求する事はしない。
ユウキの元に来る書類には、リリーナが清書した手紙の内容のみが届いていた。
当然ながら、ユウキには当たり障りの無い内容しか届いていないが、原本は『直接対話を求む』モノばかりだ。
当初であれば、既に捕虜を返還し『浮遊大陸への干渉をするな』と釘を刺して終わりのハズだったのだが、未だに捕虜が南の城に居る状態だ。
さすがにリリーナも機嫌が悪くなるばかりだ。
捕虜の中から隊長格の者達を選出し、王への直接の手紙も書かせたのだが返答は変わらない。
直接対話での話し合い、それに拘る人間側に、辟易としている浮遊大陸側の構図となっている。
そんな中、ついに彼らが帰って来た。
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ユウキの執務室に、エルフの老執事が入って来た。
本人が老執事などと言っているが、どう見積っても三十代の男性エルフだ。
肩まで掛かる銀髪に整った顔立ち、目は細く、ユウキなどこっそり陰で『十三キロメートルさん』と呼んでいたりする。
勿論、その事を聞かれた所で意味が分かる者は一人もいないが…。
名前を『マルディル』と言い、年齢はなんと四百歳。
そんな彼は、皺の無い燕尾服でビッシリと決め、ユウキの前でしっかり九十度のお辞儀をする。
「ユウキ様にお会いしたいと申す者達が来ております」
「俺に?」
珍しい物言いに、思わず聞き返してしまう。
普段から面会を希望する者達は多いが、その殆どは追い返されるか、後日執事やメイド長が対応してくれていた。
その執事が、会う事を勧めているかのような態度を取る。
これは珍しい事だ。




