273話
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メガ·ラニア大陸南方、国土の半分以上が砂漠の大国、キケロ都市国家同盟。
複数の商人達による協議制のこの国は他の二国とは違い、それ程の大きな混乱は発生していなかった。
「ところでニアキス、ディアマスの体調はその後どうかの?」
「はいアトス様、父はその…未だに体調が優れないと言ってはいるのですが、どうにもその…あれは仮病ではないかと思ってます」
長い石造りの通路を二人の男性が歩いている。
恰幅の良い中年男性のアトス、中肉中背で二十代のニアキス、その二人が昼間の通路を歩いていく。
歩いている場所は、彼ら各都市の代表が集まる神殿、通称『評議会』。
前回、丁度一月前は、この評議会の中央部にある議会にて、北の海に落ちたと言う『島』についての話し合いがあった。
その後、各都市の目端の利く者達が、影でコソコソと動いていたらしい。
結局議会にて、代表位としての実力一番であるバレシオス自らが動いた事で、全ては決着していた。
問題なのはその後だ。
三日前、そのバレシオスからの手紙が届き、彼ら代表達を驚かせた。
あの大陸には、我々の知らない高度な文明があり、しかも人が住んでいると言うのだ。
『空から落ちてきたモノに人が住んでいるなどありえない』と、バレシオスの意見を完全否定したのは、彼を目の敵にするアントニウスだった。
そのアントニウスも、バレシオスが船を出す際、自身の子飼の傭兵を二十人も連れて行くよう要請している。
要請などと言っているが、実際には脅迫だ。
普段のバレシオスであれば、バッサリと断る所だが、早く出港したかった為アッサリと同意した。
アントニウスが何を企んでいるかは知っていた。
新たな土地に対する利権だ。
この都市国家同盟では、自身で発見したと報告すれば、受理された瞬間からその者が所有者となる。
アントニウスは、砂漠地帯の各地に点在する未登録のオアシスを発見しては報告し、勢力を拡大してきた実績がある。
当然、今回の件もそうするつもりなのだろう。
さすがに『全てを自分の物』と主張する事は出来ないだろうが、僅かでも手にする事が出来ればと考えているはずだ。
もしかすれば、船旅の途中でバレシオスを始末する可能性もある。
バレシオスはバレシオスで、自身の懐刀である傭兵を使い、万全の体制で迎え撃つ。
他の商人達も、それぞれの囲う傭兵達を使って協力する旨を伝え、あわよくば『おこぼれを』と考えている事だろう。
互いに笑顔で接しながら、その背中には刃を隠し持つ。
そんな状況説明をアトスから聞かされ、苦笑いを返すニアキスだった。




