272話
一般人にはその生涯で、見た事も聞いた事も無い、それが銃だ。
銃と言う存在を知っているだけでも珍しいのに、扱った事がある者など、在野に居るハズも無い。
〜〜〜〜〜
これは全ての国に言える事だが、銃には大きな問題がある。
まず、銃本体が高い。
たった一丁の銃を購入するだけでも、規模の小さな国なら破綻する。
一丁の銃を購入してバラして量産する?無理だ。
模倣するだけでどれ程の技術が必要となるか。
仮に模倣が出来たとしても、それを購入する国があるのかと…。
更に問題となるのが『弾丸』と『火薬』だ。
弾丸は、作り方さえ知れれば、この中では簡単に作る事が出来る。
ただし、時間と手間が掛かってしまう為、購入した方が安かったりする。
溶かした鉛を砂で作った型に入れ、冷えて固まった所を取り出し形を整える。
やり方だけ聞けば簡単そうだが、実際にはバリの一つでも有れば射線が変わる。
形状が丸では無く楕円になると、場合によっては目詰まり、最悪は銃の爆発へと繋がってしまう。
結局の所、これらの作製にも職人の腕が必要となってくる。
そして一番の問題が火薬。
コレに関しては、制作方法が一切分からず、都市国家同盟の南方、巨大な砂漠地帯の奥に住む一族しか造れない秘伝となっている。
当然、購入するには彼ら一族との伝手と信頼がなくてはならず、それすらも不明な点が多い。
その為、火薬一袋で、巨大な建物を建てる事が出来る程の資金が必要になると言われている。
〜〜〜〜〜
それらの理由から、銃士など一朝一夕で簡単で雇えるものでは無い。
そんな重要な銃士を一名、今回の騒動で失ってしまった。
普通の規模の国であれば、ハッキリ言って国家的損失と言える。
『せめてもの救いは、被害が三名中の一名だった事…か』
額に手を当てながらも玉座に深く座り込むローベル王は、心の中でそう呟く。
絶対に外に向けて言える事では無いが、それでも愚痴りたくはなる。
二名の銃士達は、角の生えた女の襲撃時に、『もしもの事を考えた聖騎士団員』によって、船への批難を促されていた。
これに関しては、促した聖騎士団員を褒めてやりたいと思う王だ。
最悪、三名もの銃士を失っていればどうなっていた事やら…。
『勲章でもくれてやるべき…か?』
などと思ってた王の近くに、天井付近から何かが落ちて来た。
ヒラリヒラリと舞うそれに気付いたのは、王の側に居た聖騎士団長だった。
咄嗟に掴み取ったそれは、白い封書だ。
訝しげに見る彼だったが、王がコッチを見ている事に気付くと、軽く頷き中身を確認する。
封を開け、中身を読んだ彼が「ローベル王!!」っと叫び声を上げる。
その大声に驚いた周囲の者達の視線も無視し、跪いて手紙を差し出す。
訝しげな顔をした王だったが、団長の必死の形相に手紙を受け取る。
何が書いてあるのかと読み進めると、段々と顔色が変化していく。
「浮遊大陸の王…だと?!」
ダンと音を立てて立ち上がる王の姿に、その場にいた全員が驚く。
ローベル王の口から出た言葉は帝国に来た手紙と同じ『騎士の引取り』要請だった。




