267話
〜〜〜〜〜
人知れずエルザに同情されていたリリーナはと言うと…
「おおおー天使様あー」
「………」
神聖王国の聖騎士に拝まれていた。
身長はリリーナより少し上、百八十くらいだろうか。
頭頂部がキラリと光る筋肉質の大男が、滂沱の涙を流している。
何と言うか…頬を引き攣らせながらも笑顔を向けようと頑張るリリーナ。
『コレが嫌なのにぃぃぃぃー!!』
っと、心の中のユウキに向かって叫ぶ。
今日までの三日間、この目の前の大男で十一人目の聖騎士だが、大なり小なりこのような態度の者達だらけだった。
一番酷い者など、取り調べの為の部屋へとリリーナが入って来た瞬間、床上へと座り込み、土下座の姿勢になった。
もうそこから質問に答えてもらえるようになるまでに、どれだけ時間が掛かった事か…。
寧ろ、この大男はマシな部類に当たる程だ。
「えっと…まず、貴方の名前、所属、言いなさい」
冷や汗を流しつつ、引き攣る笑顔で質問を続けるのは、心の何かが削られる感覚だ。
少しずつ、ゴリゴリとすり減る感じに、途轍もない疲労感が襲ってくる。
そして始まるリリーナの苦悩。
名前を聞き出すだけで『おお、偉大なる天使様に私如きの名前をお聞かせさせるのはおごがましき事なれど、ですが〜』と、それはそれは長ったらしい前口上を毎回聞かされる破目になる訳で。
僅か十分程度の情報を引き出すだけで、前口上三十分が加算されるとは、思いもしない事だ。
情報収集後、次の捕虜が連れて来られるまで残り時間二十分間、机の上で突っ伏すリリーナの姿がそこにあった。
〜〜〜〜〜
そんな二人とは対照的に、ユウキはノンビリとお茶を飲んでいた。
とは言うものの一人では無く…
「ふむ、良い茶だな。コレを輸出してくれないか?」
バレシオスと共にいた。
そして、『なんでみんな、最初にお茶を褒めるんだろ。
コレが社交辞令ってやつ?』と、どうでも良い事を考えてたりする。
ユウキの後ろには、武器を持ったエルフが二人立っている。
バレシオスの後ろには、同じく武装した兵士が二人と、身の回りの世話役が二人立っている。
部屋自身は板間になっており、そこに簡素なテーブルと椅子が二脚置いてある。
そのテーブルの上には、緑茶と茶菓子が置かれている。
バレシオスは、毒見も無く口をつける。
その度に、後ろに控えている世話役達がオロオロとするのだが、本人は気にする素振りさえ見せないでいる。
バレシオスとの会談は、この三日間、毎日行っている。
本人たっての要望から、仕方がなく付き合っている。
毎回上がるのは、この浮遊大陸からの商品を売って欲しいとの要望だ。
特に、ユウキの所有する大型船を『是非とも譲って欲しい』との事だ。




