266話
現在、捕虜をこの『南の城』に収容している為、ユウキを含めた全員が一時滞在している。
その為、態々本拠地である黒い城からメイド達に来てもらっていた。
彼女達には、ユウキの身の回りの世話をさせるためだ。
食事に関しては、捕虜の分を含め大量に必要な為、日々、近くの港町からの直接仕入れで凌いでいた。
また、一緒に来ていたドワーフとエルフ達は、半分を現地解散させ、残りの人員で捕虜の見張り兼ユウキの身辺警護を実施している。
『そんなに人数はいらない』と言うユウキの意見は却下されていたりする。
リリーナ曰く、そんな状況での尋問は、それなりの速度で出来ているらしい。
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例えばエルザだが…
「さて、まずはお前、名前と所属、言え」
相変わらずの片言言語での聞き取りは、この三日間で徐々にだか洗練され始めている。
彼ら捕虜の収容場所内には、コッソリと精霊達を配置している。
精霊達の役目は、彼らの会話を盗み聞きする事。
そうする事で、妙な考えや思考を防止しつつ彼らの言語を更に深く知る事が出来る寸法だ。
まあ、現地語を知る基本は、数多くのサンプル収集と言うのがリリーナの考えだ。
どうせ捕虜が多数いるなら、これ幸いと行動していた。
謂わば、日々バージョンアップされているようなモノだ。
そのお陰で、かなりスムーズに会話が出来るようになっていた………のだが
「……………」
帝国騎士の口は固い。
どいつもこいつも、最初はほぼダンマリだ。
「お前もか、面倒な」
ため息を一つ吐くと、ゆっくりと机の下へと手を伸ばす。
エルザの足元には、縦横一メートル程度の木箱があり、その中の物を一つ、机の上へと取り出す。
取り出したのは、彼ら帝国騎士の見覚えのある物だ。
頭部を守る兜が一つ、机の上に出されている。
こんなモノをどうするのかと騎士が疑問に思っていると、兜を持ったままのエルザの右手に力が入っていく。
次の瞬間、「メキッ』と言う音と共に、丸い部分が指の形に凹んでいく。
騎士の目が大きく見開く。
半円型だったハズの硬い兜が、エルザの細長い指によって、どんどん形を変えていく。
丸い円形が歪な五角形になり、そのまま棒状になる。
縦に伸びてきたそれを手のひらで押し込むと、まるで紙細工のように下へと潰れていく。
最後には、エルザの掌の上で、丸い鉄くずとなっていた。
僅か数分の出来事だ。
実際には、エルザの力であれば、数秒で出来る事だが、目の前の人間に見せつける為、ワザと時間を掛けて行う。
「もう一度問う、名前と所属は?」
『コトリ』と音を立てて、帝国騎士の目の前に鉄の塊を置く。
このパフォーマンス一つで彼らの口が軽くなるのだから楽なもんだ。
正直な話、いちいち面倒だとは思っているものの、リリーナの方の面倒さを知っているだけに『まだマシだ』と考えるエルザだった。




