258話
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最後の一人が小舟に乗り込むのを見送ると、ユウキは溜めていた息を吐く。
周囲には、散乱した木箱や簡素な建物が見受けられる。
一応、隠れている者達がいないかドワーフ達に確認させると、この無意味な代物をどうするか考える。
チラリと木箱を覗き込むと、中にあるのは食料らしい。
戦利品と言えなくもないが、自分達の口に入れても大丈夫なのか分からない以上、下手に手を出す訳にもいかない。
この辺りに関しては、船で番をしているリリーナの意見を聞こうと思うユウキ。
そうしていると、正面からリーグとレンウェが近付いて来る。
笑顔で近付いて来る姿に、最早問題は無いだろうと判断する。
「よう親方、敵は一人もいないようだぜ」
「主様、こちらも問題ありません」
軽く手を上げてくるリーグ、それを睨み付けるレンウェ。
どうにも、気軽なドワーフと真面目なエルフの仲の悪さは、この辺りの感情的なモノが原因なんじゃないかと思うユウキ。
何にしても、これで三方からの進攻を防ぐ事が出来た。
後の処置をどうするか…だが。
そう考えているユウキの目線に、また小舟が近付いて来る。
沖合の大型船に逃げた連中が引き換えして来たようだ。
『はぁ、まだヤル気か…面倒な』
ため息を付いたユウキが手を一振りすると、直ぐにドワーフ達が海側へと並ぶ。
ユウキの周囲はエルフ達が固める。
さて、どう対応しようかと考えていると、小舟から白い旗を振る人を確認出来た。
はて、白旗を振ると言う風習は、この異世界でもあるんだろうか…など、何やら変な事を考えるユウキだったが、そんな彼の前に、さっきまでとは雰囲気が違う人物が舟を降りて来る。
「私の名はバレシオス。どうか話を聞いて欲しい」
護衛と思われる兵士を四人、世話役と思われる男性二人を連れたバレシオスがユウキの前へと近付いて来る。
さすがにそれ以上は近付かせないと、ドワーフ達が武器を構えるが、そこは止めさせる。
「いいだろう、話を聞く、簡潔に」
ユウキの言葉にニヤリと笑うバレシオス。
「是非、外交官として我々を受け入れて欲しい。どうだろうか?」
バレシオスの言葉に返答しないユウキ。
外交官と言われても、今のユウキ達には無意味なものだ。
何しろ、この世界の国々と外交を持つつもりが今の所無いからだ。
少なくともユウキにとっては、この浮遊大陸に関与して来なければ良しの精神しかない。
だからこそ悩む。
目の前の彼、バレシオスと言う人物をどうするか…。
少しだけ考えたユウキだったが、情報収集の役に立つんじゃないかと考え、彼を受け入れる事とする。
ただし、受け入れるのは彼、バレシオスとその護衛と世話役のみとした。
『後の事はリリーナに任せよう…何かあったら直に放り出せば良いし…』
面倒事を全てリリーナに押し付ける事を決めたユウキは、彼らバレシオス一行を引き連れて城へと戻る事にする。
ちなみに、海岸線の荷物は全て船に引き上げるように伝えておいた。
このままにしておくのなら、さっきの魔法で焼き尽くすと言うと、バレシオスは引き攣った笑みを向けてくる。
どうやら、このゴタゴタの内に、海岸線へと傭兵達を戻そうと考えていたらしい。
食えない人物、それがバレシオスに対するユウキの感想だった。




