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257話

リーグがやった事は単純な事。

『自身の拳で大岩を殴った』だけだ。

リーグ曰く、『鉱石採取に長けた者は、石の声が聞こえてくる』んだそうだ。


いや、何を言ってるのか分からない。


これはさすがにユウキも予想していなかった。

いや、今日の全てが予想外な行動ばかりだ。


リリーナは『一人で騎士達を全滅』させ、エルフ達は『下位魔法の恐ろしさ』を見せつけてきた。

さらにドワーフ代表のリーグは、『素手で大岩を砕く』。


後は、エルザが変な行動を起こさなければ…などと、ユウキ自身の攻撃スキルを発動させた事実を無視しながらも、半分現実逃避へと意識を飛ばしていた。


そんな彼の姿を後方で見ていた傭兵隊長のハグノンと交渉役のマルコは、目の前の現実に反応する事が出来ずにいた。

それはそうだろう。


傭兵としては、甘く見たつもりが無くとも、見た目子供の彼が、これだけの攻撃力を持った一団を支配下に置いているなどと、誰が想像出来るのか。

ハグノン的には、『都市国家同盟側の言葉が分かるから出て来た通訳だ』とばかり思っていたのだが、思い違いも甚だしい。


マルコに関しては、ハグノン以上の衝撃だ。

見た目だけで格下扱いした挙げ句、あれだけ大口を叩いたのだ。

通常の外交であれば、最早戦争待った無しの状況だ。


そして傭兵達。

ハグノン指揮下の傭兵は、まだ何とか踏ん張る事が出来ているが、その表情は強張っている。

あの巨大な爆発一つで、彼らの命運は尽きる。

その他の傭兵達など、既に逃走を開始している者も見受けられる。


つまりこの時点で、彼ら南方の進攻は無理と言える。

ならば、取るべき選択は一つ。


「し、少年、改めて話が」

「お前達の話、聞く必要無い。直に立ち去る、それだけ」


改めて話を持ちかけようとしたマルコだったが、冷ややかな目をしたユウキに遮られる。

それはそうだろう、さっきまでの態度を考えれば…と、他人事のように眺めるハグノン。


「いやいや待ってくれたまえ。これは君らにとっても有益な案件で」

「はぁ…未だ、何も分かって無い」


そう言うと、右手を上げるユウキ。

それに合わせるように、ズラリと整列していたエルフとドワーフ達が、一斉に武器を構える。


「ま、待ってくれ!!分かった、撤退する!!だから少し時間をくれ!!」


まだ何かを言おうとするマルコを押し退けると、精一杯の声を上げるハグノン。

彼ら傭兵は、自身の命を金に替える。


だからと言って、死ぬ気で最後まで戦おうとはしない。

生き残る事こそが第一だからだ。


まだ暴れまくるマルコを羽交い締めにしながらも、全員に撤退指示を出す。

ホッとした顔をしつつ、ビクビクとした態度で浜辺へと向かう傭兵達。


完全に背中を見せている今、もしもユウキ達がその気を見せたら一巻の終わりだ。

そう思いつつ、早足で浜辺の自陣に戻ると、直ぐ様小舟へと乗り移る。


陣地に居た者達が不思議そうに見てくるが、そんな彼らを叱咤しつつ、全員を沖合の本船へと移して行く。

荷物を回収しようなどとは思わない。

只々早く撤退するのみ。


一時間後、彼ら都市国家同盟側の上陸地点は、誰一人として居ない状態になっていたのだった。

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