253話
突然の動きに『ぎょっ?!』とするハグノン。
逆に、付いてこれず不思議そうな顔をするマルコ。
そんな二人を置いてきぼりにしながら、ユウキは四阿を出る。
「待ってくれ小僧、いや少年?!」
急いて後から付いて来たのはハグノンだったが、彼は気が気でない。
さっきまでダラケきっていた老人達を素早く整列させた手腕に舌を巻くしかない。
同じ事を自分に出来るのかと問われれば、状況次第としか言えないだろう。
さっきのように、完全に気を抜いていた者達を瞬時に切り返させるなど、大抵の者達には無理だろう。
そんな整然とした部隊の前に、何の気兼ねも無く進むユウキ。
その後ろを付いていくハグノンとマルコだったが、ユウキが動きを止めた事で、自分達もその場に留まる。
「お前達、特に、そっちの。コッチの力を侮る。だから一部、見せる」
マルコを指差すと、淡々と話すユウキの姿に、不吉な何かを感じ取るハグノン。
「力?何を言ってるのやら。高々コチラより数が多い程度で、まさか勝てるとでも思っているのですか?だとしたら蛮勇も甚だしい」
肩をすくめながら語るマルコを無視し、ユウキが指先を傭兵達に向ける。
その仕草にざわめく傭兵達。
だか、ユウキの指先はそのまま右側、傭兵達の左側へと向かって動く。
傭兵達が集まっている場所より数キロ離れた場所を指し示すと、ユウキが一言発する。
「エルフ隊魔法発動、目標は荒野。一応、あの人間共には当ててやるなよ。後々が面倒になる」
その言葉に、「ははははは」と声を出して笑うエルフ達。
だが、直に口を閉じると、全員が合わせたかのように一斉に言葉を紡ぐ。
浮遊大陸側の言語を知らない傭兵達は、何やら聞こえて来る聞いた事のない言葉に不安が伸し掛かる。
そして、一際大きな声と共に、エルフ達の頭上に拳大の炎が現れる。
唖然とする傭兵達を他所に、エルフ達の出した炎が、徐々に形を変えていく。
ただの炎の塊だったモノが、数秒程で細長い槍のようなモノへと変化する。
そして、エルフ達が炎の槍を投げるような仕草をすると、凄まじい勢いで飛んで行き、傭兵達の左側の地面へと吸い込まれて行く。
『ドン』と言う音が連続で響き渡り、それに合わせるように爆煙が広がって行く。
最後の一つが爆煙に飲まれたと思った次の瞬間、凄まじい爆風と巨大な炎の柱が立ち上る。
炎の柱は天に向かって伸び上がり、周囲へと熱波を振り撒く。
その巨大な炎は、遠い船上で寛いでいたバレシオスの目に届く。
あり得ない光景に、バレシオスは思わず椅子から立ち上がると、ただ呆然と見るしかなかった。




